おしゃべりなたまごやき

 子ども時代を振り返るとき、忘れられない絵本があります。『おしゃべりなたまごやき (日本傑作絵本シリーズ)』は弟の愛読絵本でしたが、読んでもらうときは小学生のわたしもいつもいっしょでした。
 何百、何千というにわとりの大群と子どものような王さまの一騒動は、今思い起こしても笑いとともによみがえります。「タララッタ トロロット プルルップ タタター」というラッパの音、「たったた とっとと」お城狭しと走り回る王さまの姿、にわとり小屋の錠にさしっぱなしになっていた鍵、ぎゅうづめのにわとりが小屋から飛び出してきた瞬間……、そしてトロリとした黄身。どの場面もそれぞれ印象的で「世の中に、こんなにおもしろいお話があるだろうか」と、読んでもらうたびに感じていました。まるで王さまのように張り切って読んでくれた母の笑顔も忘れられません。王さまの無邪気さに弟と共感したひとときは、子ども時代の1ページとして大切に綴じられています。
 その弟も昨年、父親になりました。きっとあと数年したら子どもをひざに抱き、この絵本を開くことでしょう。時代を超えた楽しさがこうしてつながっていくのかと思うと、時を超える絵本の力に畏敬の念を抱かずにはいられません。
 たまご焼き(本当は、目玉焼き)の本は、蜂蜜色の思い出が詰まった大切な絵本です。
 寺村輝夫さんに謹んで哀悼の意を表します。(asukab)

おしゃべりなたまごやき (日本傑作絵本シリーズ)

おしゃべりなたまごやき (日本傑作絵本シリーズ)