Wee Gillis 1939年オナー

 キルト衣装からわかるように、『Wee Gillis (New York Review Children's Collection)』の舞台はスコットランド。タイトルにある少年の本名は「アラステア・ロデリック・クレイギャラチ・ダルハシー・ゴーワン・ドニー-ブリストル・マックマック」と言ったが、あまりにも長いのでみんな「ウィー・ギリス」と呼んでいた。
 お話の面白さは、ウィー・ギリスの家族背景から始まる。母方の家族はスコットランド低地人。父方はスコットランド高地人。異なる風土が異なる文化を生み、母方の家族は山間部で雄鹿を追う高地人の生活を、父方の家族は草原地帯で牛の放牧をする低地人の生活をお互い小ばかにしていた。自分たちの生活が1番だよ、と言わんばかりのなりふりが、閉ざされた田舎社会らしくて非常に魅力的。親戚一同、ご近所周辺のうるさいことは、文化変われどどこもいっしょなんだなあと納得する。ウィー・ギリスはどちらになりたいのかまだわからなかったので、1年おきに、低地と高地に住む生活を繰り返すことにする。
 それぞれの地での生活ぶりは、まったく同じ朝食(大きなボウル一杯のオートミール)を取るなど、ユーモアに富む。あることをしくじったウィー・ギリスを、家族みんなで注意する場面もところ変われど行為変わらずで同じ。(クスクスクス……。)こうしてどちらの地でも失敗を繰り返さないように気をつけた結果、彼はある技を体得する。これが皮肉にも、後の生き方を決定付けた。
 終幕が意外にあっさりしていたけれど、興味の尽きないお話で何度も笑えた。親戚のおじさん、おばさんたちに加え、ウィー・ギリスの表情が本当に生き生きしているもの。その昔、少年少女たちを夢中にさせた巧妙な描写は、今でも十分通用すると思った。でなければ、こんな風に復刻新版で出るわけがない。
 再度ページを開くと、主人公の素直でひょうひょうとした性格が魅力の秘密かなと思えた。冒頭の長い名前と少年のそばかす顔に、読者はするりとお話に引き込まれてしまう。少なくとも、息子がそうだった。同じ年頃だから、友だちのように思えるんだろう。将来の道はこんな風に開けるんだよとか、いろんな見方があるよとか諭してくれる絵本である。このあたりは、同コンビによる『はなのすきなうし (岩波の子どもの本 (11))』に通じる学びかも。
 出版元の紹介に、「ウィー・ギリスは孤児」とあるのだが、ふ〜ん、そうなのかと驚く。(asukab)
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  • わたしの手にした版は、第12版(1969年)。初版と同じタータンチェック模様の表紙デザインなので、この新版と異なる

Wee Gillis (New York Review Children's Collection)

Wee Gillis (New York Review Children's Collection)