Waiting for Gregory あかちゃんは いつくるの

 主人公のアイリスは、ルネサンス絵画に描かれているかのような女の子だ。金髪の結い方がまるでお姫さまで、「おうちは、ベルサイユ宮殿?」と尋ねたら、澄んだ青い瞳でこちらを見上げ「そうよ」と可憐に答えてくれそうである。絵本『Waiting for Gregory』を目にしたとき、モーツアルトの『魔笛*1を思い出した。キャラクターたちの身なりがまるで、ゾーヴァの創造した歌劇に登場する役者みたいなのだ。然もありなん。終り近いページにこうあった――「あかちゃんを まちわびるのって、ショーのはじまりを わくわく まっているときみたい」。最初に戻り、中表紙をめくると小屋の屋根に「劇場」の文字がある。なるほど、なるほど、心ときめかせながらショーの開演を待つ気持ちが、赤ちゃんを迎える気持ち、ということか。
 アテナおばさんに赤ちゃんが生まれると聞き、グレゴリーと名づけられる赤ちゃんが「いつ」やってくるのかアイリスは知りたくて仕方がない。お父さんに聞いても、おじいちゃん、おばあちゃんに聞いても「すぐでもないし、ずっとさきでもないよ」「こうのとりが はこんでくれるんじゃ」「キャベツばたけの キャベツのなかにいるのよ」……と、よくわからない答えが返ってくる。友だちのルーシーなど、ハロウィンのかぼちゃランタンと同じくらいのおなかでないなら、赤ちゃんはまだまだやってこない。それまでに、おばさんはすっぱいピクルスの乗ったアイスクリームサンデーを山ほど食べなくちゃ、なんて言い出す始末。(ピクルスとサンデーは、なんとも米国的!)
 このお話がもし米国の日常を描くイラストで飾られていたら、これほど特別な作品に仕上がっていなかっただろう。シュールで、優雅で、どこそこの宮廷歌劇に招かれたかのような気品あふれるイラスト*2だからこそ、生命の不思議が際立って強調されていると思った。放物線や歯車、滑車を用い、科学の力でアイリスの疑問を解こうと象徴した挿し絵が、赤ちゃんというテーマには独特で新鮮だ。そして、画材の質感を出したこなれた筆、ペンさばきが、劇の背景になっているであろうヨーロッパ王朝文化と科学の世紀という時代性を巧みに表現するのである。ため息。
 トータルで「美しい」赤ちゃん絵本の誕生となった。(asukab)
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Waiting for Gregory

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