SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS 1939年オナー しらゆきひめと七人の小人たち

 原書でなく内田莉莎子さん訳の『しらゆきひめと七人の小人たち (世界傑作童話シリーズ)』を読んだ。文字が多く小さな子ども向けではないけれど、おもしろい表現がたくさんあり愉快だった。グリム版というより、米国中西部版という感じかな。ガアグのモノクロ画は影となる黒が特徴であるにもかかわらず、ここでは暗くうっそうとした森より、からっと晴れた空がまろやかに浮かんで映る。ぷかぷかと流れる雲、あるいはイラストの余白のなせるわざだろうか。しらゆきひめが洗濯物を干す後ろ姿など、まるで「大草原の小さな家」のローラ。背景に、空と平原がとっかーんと広がっている。
 最初におもしろいなと思った部分は、七人の小人が森の小屋に戻り、しらゆきひめと遭遇する場面。ベースに「三匹のくまと金髪の女の子」のお話があり、思わず息子と顔を見合わせた。こんな感じなのだ。

……七人の小人は、それぞれ、ろうそくをともしました。そして、だれかがきたことに、すぐきがつきました。
 一ばんめの小人がいいました。「わしのいすにかけたのは、だれだ?」
 二ばんめの小人がいいました。「わしのさらからたべたのは、だれだ?」
 三ばんめの小人がいいました。「わしのパンをかじったのは、だれだ?」
 四ばんめの小人がいいました。「わしのやさいのあじみをしたのは、だれだ?」
 五ばんめの小人がいいました。「わしのフォークをつかったのは、だれだ?」
 六ばんめの小人がいいました。「わしのナイフできったのは、だれだ?」
 そして、七ばんめがいいました。「わしのワインをのんだのは、だれだ?」

 続く場面が、さらにおもしろい。誰かがベッドで寝た事実を目の前にして、「わしのもだ。でこぼこのくしゃくしゃだ」「わしのものだ。しわしわだ」「わしのもだ。よれよれだ」「わしのもだ。もみくしゃだ」……。間を入れず流れるくだりにリズムがあり、笑いが止まらなかった。
 三匹のくま風アレンジ以外にも明るさの宿る理由は、ユニークな表現によるところが大きいかもしれない。とくにお妃の心情描写は、強烈な印象を残す。「ねたみそねみは、まるで庭をあらす雑草のように、おきさきの心のなかで、ぐんぐんそだち、もう、よるもひるも、心のなかは、あらしのようでした」「おきさきは、しらゆきひめのものだとおもいこんで、心ぞうをやいてたべました。おしおをふって、むしゃむしゃたべました」。色を盛り込んだ表現にも引かれてしまう。「ねたましいやらくやしいやら、あおくなったりきいろくなったりしました」「それをきいたおきさきは、かっとなって、まっさおになりました」「おきさきは、かおをむらさきいろにして、はらをたてましたが……」。こういう箇所にくると、一人で受けていた。楽しい脚色は、子どもたちを喜ばせたいがために生まれたものだったんだろうなあ。にぎやかな笑い声が聞こえてきそうだった。想像力を掻きたてられる描写に、怯えていた子どももいたのかもしれないけれど。
 無垢なしらゆきひめと憎悪に満ちたお妃の対照的な心模様が、考えてみればガアグの光と影のイラストにぴったりではないか。愛蔵版「しらゆきひめ」といえる。(asukab)
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  • 邦訳書影がないので原書で。日本語版は白い絵柄の部分に沿った縦型で、最近の翻訳絵本には珍しい縦書き本文

Snow White and the Seven Dwarfs

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