Probuditi! プロブーディチ!

 オールズバーグの最新作『Probuditi!』を読む。
 誕生日のプレゼントに魔術ショーのチケットをもらったカルビンは、相棒のロドニーと大魔術師ロマックスによるマジックショー昼の部を見に行く。二人の目を釘付けにしたのは、観客の婦人を「にわとり」にしてしまった催眠魔術だ。家に戻った彼らは母親が出かけている間、カルビンの妹トゥルーディーに、ロマックスがしたのと同じように白黒の渦巻き円盤を使った催眠術を施した。半信半疑で始めたことだが、結果は思いがけない方向に動き出す。トゥルーディーが本当に犬のようになってしまったのだ。吠えたり、皿から水を飲んだりと犬同然の行動に二人は驚き喜んだのもつかの間、元に戻せないもどかしさにあせり始める。
 やさしいセピアブラウンで描かれたイラストに、まず米国40年代から50年代を想起した。街中に、湿った夏の空気が流れている。場所は、どこだろう。イメージとして南部が浮かんだのだけれど、それじゃあ少年たちの関係がおかしい。なぜなら、カルビン、トゥルーディー兄妹は黒人、ロドニーは白人であるからだ。いっしょにバスに乗り、魔術ショーを見に行き、二人で通りをさまよう光景は、この時代にありえない。じゃあ、西海岸あたり? それでも公民権運動の成果が浸透するまで、こういう子どもたちの関係はなかっただろう。
 この疑問をいとも簡単に解いてくれたインタビュー記事があった。オールズバーグはここで、「政治的な背景は些細なこと」としている。子どもは自分が感情移入できればそれで物語を楽しめるのであり、ここでは枝葉末節に過ぎない、と。初めて黒人の子どもたちを描いた理由は、作家として各地で講演するにあたり読者の多様性を目の当たりにしたからという。そのうち、アジア人の子どもが主人公の作品も生まれるかもしれない。
 タイトルは、セルビアクロアチア語で「目を覚ませ!」の意味。正確には「Probuditi-se!」と活用するらしいけれど、東欧的な奇術の雰囲気がよく出ていると思った。作品は、摩訶不思議なできごとの連続で読者を引き込むというよりは、夏を背景に少年二人の息づかいを巧みに描くという、ちょっとした小説風に仕上がっている。
 オールズバーグらしく最後には当然オチがある。先のインタビューを読んでしまうとここがわかってしまうので、最初に作品を読むことをおすすめしたい。魔術師つながりで『The Garden of Abdul Gasazi』(邦訳『魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園』)にも言及していたので、こちらもまた読んでみよう。(asukab)
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  • 今年は巨匠たちがこぞって、秀作を世に送り出しているよう

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