Adele and Simon アデールとサイモン さがしものはなあに?

 なんてエスプリの生きた絵本! 二十世紀初頭を想わせるイラストを見て、ひづめの音が響き、アコーディオンの音色流れるパリの街角に佇んでいるような錯覚に陥った。彩り豊かな秋のパリを舞台に、美しく遊べる絵本が『Adele and Simon (Adele & Simon)』(邦訳『シモンのおとしもの』)である。その遊びとは、探しもの。お姉ちゃんのアデールと弟のサイモンがパリの街中で探しものをする間、読者も同時に街を散策しながら百年前に時間旅行!となる。
 放課後のこと。うっかり屋さんのサイモンにアデールが念を押す。「きょうは なくさないでね」。でも、それにもかかわらずサイモンは、帽子、手ぶくろ、スカーフ、セーター、コート、ナップサック、本、クレヨン、その日学校で描いた猫の絵……を、訪ねた先々で置き忘れてきてしまい、さあ困った!
 丹精なイラストを見て、思わず息を呑んだ。やわらかなセピア色に包まれた空気が、巧みに時代性をかもしている。場所はどれもパリの名所ばかりなので、百年前が再現されたレトロなペン画を眺めるだけでもぜいたくな体験というものだ。姉弟のたどった足跡は見返しの地図「Paris and Environs (Karl Baedeker, 1907)」に示され、実際パリを訪ねたら歩いてみたいなという気持ちにさせられた。巻末に各十三場面の背景について解説があり、ちょっとした旅行ガイド風でもある。肝心の探し物は、子どもも大人も目を凝らして……時間を忘れてしまうほど堪能した。
 作者のフランス好きは知っていたけれど、フランスに捧げる絵本を制作するとはよほどのほれ込みようと見た。フランス好き、パリ好きな人に!(asukab)
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  • パリっ子のお洋服にも、もちろん注目

シモンのおとしもの

シモンのおとしもの