Pancakes for Supper! みんなでホットケーキ!

 『Pancakes for Supper』は、ヘレン・バナマン作『Little Black Sambo (Wee Books for Wee Folk)』(邦訳『ちびくろさんぼのおはなし』)を北米ニューイングランドの風土に合わせてアレンジしたお話だ。差別用語「サンボ」を使用せず、お話のおもしろさをそのまま残し、巧みに改作している。
 父さん、母さんといっしょに馬車に揺られ、ウィスカークリークの町を目指す女の子トビーが主人公。季節は雪どけ三月の頃。ところどころに残雪が見える森でのできごとだった。ぬかるみのひどい道で車輪がでこぼこにぶつかり、その衝撃でトビーがひゅいーんと空に放り出される。落ちたところは、なんと! お腹をすかせたおおかみの目の前。「ぺこぺこだー。空からふってきた子どもを食べるぞー!」。おおかみはゴクリつばを飲む。「おねがい! おおかみさん。わたしを食べないで! かわりに うらに むらさきいろのぬのがついた すてきなあおいコートをあげるから」――。この後トビーの出会う動物は北米の森らしく、やまねこ(クーガー)、スカンク、はりねずみ、くま。誰が森一番のおしゃれな動物か、砂糖かえでの木のまわりをぐるぐる追いかけ競い合う。動物たちが溶けて消えた後に残った茶色い液は……。
 父さん、母さん、トビーの食べたホットケーキの枚数は原作のまま。いやあ〜、楽しかった。娘はトビーがぐい〜んと空に放り出されるところからぐぐっとお話に入り込み、途中興奮して「ママ! これバターになっちゃうお話じゃん!」と教えてくれた。うちでは黒い小犬が散歩に出かける『チビクロさんぽ』で楽しませてもらっていた。
 北米百年前の晩冬という地味で寒い設定の下、原作と同じおもしろさが体験できるとは正直想像もしていなかった。少しばかり別なお話を読んだ印象を受けるのは、トビーと動物たちのやりとりに各動物のキャラクターがよく表れ、新しい味わいになっているからかもしれない。
 何だかとっても得した気分にもなった。理由はきっとアレンジの深みも堪能できるからだと思う。たとえばシェイクスピアの二作、米国50年代ロックンロール文化で描く「Midsummer Night's Dream」や20年代ラグタイム文化で描く「Twelfth Night」観賞後の感動に通じる気持ち。ストーリーテリングに長けた作者ならではの実力と言ったところか。(asukab)
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  • イラストは動物の表情に愛嬌があり、冬の色合いから北国民話のような雰囲気を漂わせる

Pancakes for Supper

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