The Cow Who Clucked コッココッコとないたうし

 鳴き声をなくした牛を描く絵本『The Cow Who Clucked』を読み、あらためてこの作家の底力を感じた。単純なのだが子どもの好きなものばかり登場し、いつの間にか心が牧草地に飛んでいた。
 舞台は、夏の農場。朝起きて「コッコ」と鳴いた牛は、自分の「モー」を探しに行かなくちゃと言って歩き出す。干草の山で犬に会い、草地で蜂に会い、塀のわきで猫に会い、小川で魚に会い……、みんなの鳴き声や音を確かめるのだけれど、誰も自分の「モー」を持っていない。
 最後のページは、「たったそれだけ!」の結末。でも振り返ってみるとこれがおもしろく、引き付けられる流れなのである。この魅力は、いったい何? まず、牛がコッコと鳴く非日常性で子どもを引きつけ、親近感のある動物たちが鳴き声といっしょに表われ、同時に自然がいっぱいで、繰り返しが続き、太陽の温もりが感じられるようなイラストで包み込む……といくつかリストを挙げてみた。のんびりと決して急がない牛さんのペースも、子どもには安心だろう。
 デニス・フレミングの絵本は渡米したばかりの頃、夢中になった。魔法がかった重ねの色合いを、どうやって出しているのか。アートスタジオを訪ね、ぜひ見学したい画法である。この風合い、質感がある限り、彼女の作品はどれも、「たとえ普通でも特別」になるのだろうと思った。(asukab)
amazon:Denise Fleming

  • 干草の匂いがわたってきそう

The Cow Who Clucked

The Cow Who Clucked