A World War II Story: Across the Blue Pacific 青い太平洋をこえて 第二次世界大戦のある物語

 十一月に入り、各教室・廊下ブルテンボードの飾りつけも変わる。一年生のクラスに、十一日「復員軍人の日(Veterans Day)」に合わせ、赤いケシの花をあしらった紙皿工作と一編の詩が掲げてあった。流した血の色を象徴するケシは、国境と時を越え、国籍・歴史に関係なく、戦争で倒れたすべての兵士とその家族に捧げられていたように思う。軍人を悼むなどと言えばかなりの右寄りと思われるのかもしれないが、この赤はそんなものはとうに飛び越えて、地球上、歴史上すべての人々に無言で平和を訴えていた。戦争に正当化がありえない中、出兵は完璧な自己犠牲の上に成り立っている。それを思うと、赤の哀しさがさらに際立った。
 赤いケシはその広がりぶりから軍事色が濃いと批判され、白いケシの花を掲げる人たちもいるそうだ。でも、平和がもっとも尊いという基本理解に違いはないはず。戦争で家族を亡くす辛さは誰もが共有できる感情だからこそ、赤の持つ意味に素直に気持ちを委ねたいと思った。
 いくつかのクラスでは、復員軍人協会や身近なベテランたちに感謝の手紙を書いた。日本では考えられないことかもしれない。でも、これを右だ左だと決め付けるつもりはまったくなかった。人の気持ちを思い行動することが大切なのだと教えてもらった。
 息子と読んだ絵本は『Across the Blue Pacific: A World War II Story』。別に今日を意識して借りてきたわけではなく、図書館の新刊棚に置かれていた一冊だった。潜水艦アルバコアに乗り組み、太平洋監視任務についた若き二等指揮官テッド・ウォーカーの家族、近所の住人たちの日常を通して、太平洋戦争を描く絵本である。歴史ノンフィクションには、必ず実在モデルがいる。この作品の場合、1944年11月7日恵山岬沖で日本軍の魚雷に遭い戦死した、作者の叔父ということだった。遠い米国から太平洋に想いを寄せる人々の姿が主人公の少女の声を通して語られ、命の重み、家族の痛みが深く静かに伝わってきた。この悲しみは、戦争によって愛する人を失った人々すべてが知るやるせない悲しみ――。
 ノンフィクションを得意とする作者*1の実力が感じられた秀作。(asukab)
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  • 淡々とした語りと海の青さが深い悲しみを伝え、涙

Across the Blue Pacific: A World War II Story

Across the Blue Pacific: A World War II Story