おたのしみ! おたのしみ!

 飽食の時代の「ごちそう」って何だろう。娘と『おたのしみ!おたのしみ!』を読み考えた。すごく食べたいものがあり、楽しみ待ち焦がれる経験が最近あったかな……と振り返る。味覚の乏しさからか、旬を味わう季節感の欠如からか、悲しいかな、わたしに食感への衝動は見当たらない。せいぜい、好物なのでえびのホワイトソース+フェトチーニが楽しみとか、子どもたちが喜ぶから甘辛カレーが楽しみとか、表面上の嗜好だけで、何か月も待ちながらごちそうを思い描く気持ちなど想像できなかった。でも、昔の人は違ったのよね。お正月やお祭りをお祝いすることが、どれだけ日々の楽しみで生活の張りになっていたことか。わたしには想像も及ばない。
 絵本に出てくるモグおばあさんは四月、森の中でまだら模様の卵を拾う。「みてごらん。かんしゃさいの ごちそうだよ! た・ま・ご・よ。はんてんもよう なんだから!……」おばあさんはもう有頂天。七面鳥を丸々太らせて、どんなにすてきな感謝祭を迎えられるか考えるだけで心が踊った。生まれた七面鳥はおなかがぺこぺこで何でもよく食べる。畑にまいた種、ジャムにしたかった木苺、ゼリーにしたかったぶどうも食べられてしまったけれど、おばあさんは感謝祭のことを考え、「まるまる ふとった おおきな しちめんちょうが たべられるからね。おたのしみ おたのしみ!」と喜びを先に延ばした。そして迎えた感謝祭……。
 11がつ。
 モグおばあさんは かんしゃさいの じゅんびを はじめました。
 まず、おのを さがしだして
 とうもろこしを こなにひきました。
 つぎに、おのをといで
 クランベリーソースを つくりました。
 それから、おのを するどくして
 パンプキンパイを やきました。
 そうして、おのを みがいて
 たまねぎと くりの つめものを つくりました。……
 この文章と鋭い斧をかかえたおばあさんの様子がおかしくて、娘と顔を見合わせて大笑い。この後、七面鳥がどうなっちゃうのか。お話の目玉だけに、娘は真剣だった。
 ベージュを基調に白と黒だけで描かれる地味な絵本だけれど、おばあさんの心の高揚と七面鳥をめぐる日々がほのぼの豊かに表現され、感謝祭のような満ち足りた気持ちが味わえた。収穫感謝の正統派心情を描く隠れた秀作絵本。(asukab)
amazon:Lorna Balian

Sometimes Its Turkey, Sometimes Its Feathers

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