My Father's Shop モロッコの市場を舞台に文化の豊かさが実感できる絵本

 『My Father's Shop』の舞台は、モロッコ。ムスタファ少年のお父さんは、じゅうたんを売っている。ある日、穴があり売り物にならないじゅうたんをもらったムスタファ少年は、交換条件として観光客相手に使う外国語を父さんから学ぶことになる。「Bienvenue」「Hermoso」「Good price」「O cha wa ikaga desu ka?」――。父さんは片言のフランス語、スペイン語、英語、そして日本語まで操って商売をしていた。でも外国語のレッスンに退屈したムスタファは自分のじゅうたんを頭にかぶり、市場に向かって一目散に逃げ出してしまう。じゅんたんの色と同じ雄鶏を見つけ鳴き声をまねていると、「自国では、こうやって鳴くのよ」と、フランスやスペイン、いろいろな国の観光客が集まってきた。
 モロッコは、旧フランス領。そんな背景から、作者はきっと西北アフリカの地に何度も足を運んだに違いない。色とりどりのじゅうたんが折りたたまれ、壁に飾られ、床に敷かれた光景には、現地文化への愛着感がたっぷり漂う。店に置かれたティーポットやスリッパ、市場の風景にも同様に、土地へのあたたかなまなざしが感じられた。愛しい街でのできごとは、これまた心通う楽しい光景に包まれる。
 モロッコの地を訪ねたことはないけれど、じんと通じてしまうこのぬくもりは何? ちょっと陰りのある店内に見るムスタファ少年と父親の日常――たとえば、ごろんとじゅうたんの上で寝転ぶ父子の姿――に親しみが湧くし、活気ある市場で体験する交流の状況が外国人のわたしにはより深く理解できた。そんな共感が理由かしら。モロッコ文化紹介と国際交流という二本柱のテーマがほどよく溶け合い、現地の様子が目に見えるようだった。でもやっぱり、砂漠の風というかイスラムの風のわたってくるような、じゅうたんのある風景描写が一番の魅力かな。
 娘はステレオタイプ化された日本人観光客に興味津々で、何度もこのページを開いていた。笑い合う観光客を指さして、「ママは違う文化のことを笑っていいと思うの?」とちょっとまじめに聞いてきたので、「楽しいときは、文化の違いを笑って味わうこともあるのよ」と話した。(asukab)
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  • 原書はフランス語の絵本で、2004年に出版されている

My Father's Shop

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