The Flying Bed イタリア・フローレンスを舞台に空とぶベッドが描く現代の寓話

 フローレンス中に知れる売れっ子パン屋だった父親と対照的に、二代目息子のグイードは材料を使い惜しみするためにろくなパンが焼けず極貧状態でパン屋を経営していた。家中の物を売りながら生活費をまかなっていたので、ある日からっぽの部屋を見た妻マリアが「ベッドもないなんて!」と怒り出し、グイードはしぶしぶベッド探しにでかける。なじみのない路地で見つけたベッド屋で、ただで手に入れたベッドは曰く付きの空飛ぶベッドだった。グイードとマリアはその夜、空飛ぶベッドに乗り、パン屋の親方に出会う。そして彼から「最高においしいパンが焼ける」という魔法のイースト菌を手に入れた。それからというもの、夫婦の焼くパンはフローレンス中で一番と評判が立ち、二人は裕福になっていく。
 パン屋の親方から手に入れたイースト菌は、「誰にも話してはいけない」と言われている魔法の菌。約束を破ると、魔法は解けてしまうのである。ということは、人間のすることだから……。
 『The Flying Bed』は二人の巨匠作家・画家が描いた絵本。現代の寓話は、前評判どおりの質の高さだった。作品自体まず、絵本というより寓話・短編である。美しい文章とともに一瞬写真のようにも見える写実的なイラストが、夢のようでいて同時に臨場感たっぷりのイタリア・フローレンス(フィレンツェ)の街に誘ってくれた。魅力ははやりイラストだ。風光明媚なルネサンス都市の街角に潜んでみたり、ふわりと空の上から眺めてみたり、トスカーナ地方に思いをはせずにはいられない。
 画家は大学教授、作家も大学で教鞭をとる。なるほど、アカデミアの風を感じた。イースター用のパンを焼いたり、りんごが象徴的に描かれているので、読むなら春から夏にかけてがいい。(asukab)
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  • 人と街が生き生きしている。息子といっしょにフローレンスを堪能した

The Flying Bed

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