ボルカ はねなしガチョウのぼうけん

 「また来てる! ママ、ダックさんたちがまた来てるよ!」――。朝、ブラインドを上げ、娘が叫びました。そういえば、野生のアヒル夫婦のことは、日曜日あたりから興奮して話していたっけ……と記憶を呼び戻しながら窓辺を見やると、えっちらおっちらかわいらしい二羽の夫婦が前庭に寄ってきています。これは鳥の絵本を読まなくちゃ。『かもさんおとおり (世界傑作絵本シリーズ)』か『ボルカ―はねなしガチョウのぼうけん』のいずれかということで、今回は後者を選びました。
 ボルカは、ガチョウのポッテリピョンさんご夫婦の間に生まれたガチョウの女の子です。ほかの兄弟と違って、生まれつき羽がありませんでした。心配したポッテリピョンの奥さんは、ボルカのために羽の色と同じ灰色の毛糸でセーターを編みました。これで、寒い夜も暖かく過ごせます。兄弟たちはみんな、泳いで飛べるようになりましたが、ボルカは水に入るとセーターを乾かすのに時間がかかり、泳ぐことも飛ぶこともあきらめてしまいました。
 かわいそうなボルカ。あしの草陰に隠れ涙を流すボルカの姿を知るのは、読者であるわたしと娘しかいません。兄弟たちは変わり者のボルカを笑うし、ポッテリピョンさん夫婦は生活のために大忙しでボルカの気持ちを知る余裕がなく、絵本の中でボルカは孤独な存在になりました。冷たい風が吹き始め、ポッテリピョンさん一家は南へ渡る準備を始めました。そして、飛び立つその日、ボルカは飛べないので、一羽寂しくみんなの飛び立つ後を見つめていました。両親さえ、ボルカがどこにいるのか知らないのです!
 自分を見下げる兄弟、自分の状況に気づいてくれない家族――ボルカの置かれた状況は悲愴的で同時に現実的でもあります。とある人生の縮図のようにも見え、絵本は一代記の様相も呈しています。救いはないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。残された地で、ボルカは心温まる、新しい出会いを体験するのです。
 たっぷりと塗られた絵の具の中にボルカの気持ちがほんのり映し出され、悲しさ半分、温もり半分。あどけない表情が、たまらなく哀愁を誘い出します。でも、出会いは必ずあるのです。心の優しい人は必ずいると教えてくれる絵本です。春から秋にかけての季節に読むのがいいでしょう。(asukab)
amazon:John Burningham

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Borka Goose With No Feather (Red Fox picture books)

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