The Zoo モノトーンと色の織り成す動物園のファンタジー絵本

 お父さん、お母さんといっしょに動物園に来た女の子。彼女はそこで、動物たちと遊び出す。檻の中にいるはずの動物たちが見えない。でも、女の子は楽園で、動物たちと楽しそうに遊んでいた。――これは、絵本『The Zoo』での風景。
 ところで、シアトルの動物園には檻がない。というか、檻の中に住む動物もいるのだけれど、極力自然の生態系を再現しようとして、動物園はさながらハイキングコースと化している。渓流を作ったり、ジャングルっぽい蔓を生けてみたり。この人工生態系を動物たちがどう感じているのかは知らないが、少なくともそこに足を踏み入れると、人間は大自然の小径を歩いているような錯覚に陥る。サバンナの動物たち――キリン、ライオン、しまうま、カバなどなど――は、アフリカの一村を疑似体験できる平原に住み、狼、山ヤギ、熊など北米の動物たちは、それらしい小高い丘に住んでいる。米国の動物園は、きっとどこもこのネイチャー志向にあると思う。
 なので、この絵本に描かれる檻を目にしたとき、ちょっと古い時代の動物園を思い出した。舞台は、韓国の動物園。空っぽの檻と自然豊かな楽園がモノトーンとカラフルな色調で対照的に表現され、まるで自分も夢を見ているかのような気持ちに浸っている。間の切り替えが巧みで、作者の力量が伺えるところだ。パステル使用のコラージュが鮮やか。
 檻の存在についても考えさせられた。動物園の存在も。殺風景な表紙だからこそ、生命を象徴するカラーページが生きている。冷たい檻のイメージがあるから、豊かな楽園が広がっていくのだろうか。(asukab)
amazon:Suzy Lee

  • 作者はテキサス州在住の韓国人画家。空間の余白がアジア風。色使いがすてきです

The Zoo

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