母の日に読む絵本「おかあさん どーこ」

 母親という内的存在を理解できるようになったのは、遅ればせながら自分が母親になってからです。たとえば、玉子焼きを焼いているときであるとか、膝に穴のあいたパンツを繕っているときであるとか――。日々子どもと過ごす中で、ふとしたできごとを通して、母も祖母もこういう気持ちでわたしのことを見つめていたのではないか……と、想像を巡らせることが多々あるのでした。
 見過ごしてしまいそうな些細な場面で、代々母親たちが抱いたであろう気持ちと重なる体験。考えてみれば、これは時の流れを一気に体で受け止めるような、一種の満ち足りたスリルと言えるでしょう。娘もいつか味わう心情なのだと想像すれば、なにやら照れくさい喜びに包まれます。
 タイトルのイメージから漠然とした母親像を抱いて『おかあさん どーこ』(原書『Mother's Mother's Day』)を読み、ぶるるんと心が震えました。きっと絵本に登場するねずみさんたちも、わたしと同じように「母親の気持ち」を味わったのだと確信が持てたからです。

のねずみのヘーゼルは、おかあさんのうちに いきました。
きょうは、とくべつな ひ。
だから へーゼルは、すみれのはなたばを
もっていったのです。

でも おかあさんは、いません。 あらっ!

 お母さんは、おばあさんを訪ねていたのです。何しろ、今日は「特別な日」ですから。けれども、おばあさんは、ひいおばあさんを訪ねていて不在。ひいおばあさんは、ひいひいおばあさんを訪ねていて不在……。日ごろの想いを「特別な日」に託す彼女たちのハートは、大切な誰かを思いやるぬくもりでいっぱいです。最後のへーゼルのひとことが、とってもすてき。娘と母親って特別な関係なのだと思わずにはいられませんでした。
 ローナ・バリアンの絵本*1には、日常で味わう小さな気持ちが、あちらこちらに散りばめられています。たとえば文章で言うならば「行間」に詰めこんだような含みのある描写で。ここが彼女の作品の魅力です。(asukab)
amazon:Lorna Balian

  • 春らしい描写がすてき。大きな猫が迫力たっぷりで、読者を引き付けます。邦訳の書影がないので英語版で

Mother's Mother's Day

Mother's Mother's Day