ママ だいすき

 息子が小さな頃のこと。あれは確か水泳教室に通っていたときだから、2歳半から3歳ぐらいだっただろうか。車に乗り込んでわたしがエンジンをかけようとしたとき、ふとうれしそうに「ママ、だーいすき!」と言った。ちょうどわたしの友人もいっしょにいて、彼女は「わあ、かわいい!」と感動した。うわあ、ママもびっくり。突然、移動している最中に、何の脈絡もない場面で「ママ、だーいすき!」っていう宝石のような言葉をかけてもらって。
 「ママ、だーいすき」「ママ、だーいすき」「ママ、だーいすき」――以来、幾度となく、そのときの状況を思い出しては愛しいフレーズを唱えてみる。わたしも子どもの頃、母に向かって言っていたのかな、などと振り返りながら。
 時代性ということを考えると、ペーパーバック絵本『ママだいすき (福音館のペーパーバック絵本)』(品切れ)は、うちにある絵本の中で、もっとも大切な宝物になる。今は違う出版社から『ママだいすき』として出ているのだけれど、わたしの場合、「ママ だいすき」は、かばさん親子が表紙の初版でなくてはならなかったりして。きわめて個人的な思い入れがあって、ちょっと恥ずかしい。でも、水彩の塗りむらとか、にじみ、少し陽に焼けた感のある色あせた中間色がノスタルジーを掻き立て、いつの間にか子ども時代に誘ってくれるのだった。
 好きなページを挙げてみると……:

「さあ おでかけ」
「ママの かお みに いこうっと」
「また ぺろぺろか」
「ママ きれい」
「ママの そば あかるいな」
「ママ ママ あっはっは」
「ママ みいつけた」
「ママ おいでー」
「ママ ああ きれい」……

 イラストを眺めフレーズを唱えると、母と子のぬくもりいっぱいの絆に素直に感動している。
 母親って、やっぱり特別な存在なのだ。夜、町内会や教会の婦人会で母の顔が見えないと、何か不安で心が曇っていた。母の外出を承知で何度も「ママは?」とたずねてしまう自分。「パパじゃだめなの?」と父から聞かれ、遠慮しながら「だめ」と応えると、「そうかあ。ママって、すごいねえ」と父が感心していたっけ。
 母親って子どもにとり、太陽のにおいがする枕とお布団のような存在だと思う。自分の子どもたちにとって、わたしもそんな存在でい続けたい。「ママ、だーいすき」って、いつまでも言われたいけれど、最近の多忙な日々を振り返ると、ちょっと不安。それでも絵本を開き、今の自分と昔の母を重ねてみたりする。(asukab)
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  • 40歳前後のママは、初版に「胸きゅん」じゃないかなあ

ママだいすき

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