and the train goes… のどかで華麗な汽車の旅

 スタイルのある絵本っていいなあ――。『And The Train Goes...』(邦訳『さてさてきしゃははしります…』)を初めて読んだとき、そんな風に感じた。赤と緑が基調のペン画と、旅先で聞くさまざま音が、時代を超えて魅了する。今までに出会ったのことのない不思議ですてきな乗り物絵本だった。
 描かれるのは、英国の古きよき時代の汽車の旅。今年出たばかりの新しい絵本なのだけど、そこに流れている時間は50年代、あるいは60年代風である。汽車に飾られた唐草模様や花をかたどった縁取りなど、ひと昔前の洋菓子屋さんの包装紙とかビスケットの缶のようなデザインがそこらじゅうに施されているのだもの。気品があって、華麗で、慎ましい。一見レトロ好きな若者に受けそうなビジュアルは、今の小さな子どもたちにはどんな風に映るのかな。
 出てくる人々の表情が穏やかで、こちらものんびりお茶などをいただきながら旅に出てみようか……の気持ちにさせられちゃう。どこの国でも汽車旅は時間が気ままに流れていく、子どもの息づかいにぴったりの風景なんだろう。乗客に小学生のグループがあり、帽子をかぶった制服姿を見た娘が、「マドレーヌたちに似ている」とすごく喜んでいた。最初は車掌さんに始まって、運転手さんやお茶を味わうご婦人方、兵隊さんまで乗った車がどんどん続く。みんな、とても誇らしげなのがいい。
 もうひとつの魅力はもちろん「音」。これがかわいい効果を出していて、古いとか新しいという価値観をひとっとびに越えている。
 英国文化の香る独自のスタイルを貫いた、かわいいかわいい汽車の絵本。星5つ。(asukab)
amazon:William Bee

  • 田園生活を楽しむ作者ならではの風流さがいっぱい

さてさてきしゃははしります…

さてさてきしゃははしります…