One Thousand Tracings 戦禍を被ったドイツに靴を贈り続けたある家族の物語

 祖父母宅の屋根裏部屋で見つけた、何千もの足型。新聞紙や便箋から切り抜かれた型には、色あせたインクで名前などが記されている。いったい何のためにこれだけの足型が取られたのだろう。大小さまざまな足型が語る秘密を知った作者は、第二次大戦後、荒廃したドイツに住む友人・知人らに米国から食料や衣服、靴を贈り続けた祖父母たちの功績を絵本『One Thousand Tracings』にしたためた。
 表紙や見返しにコラージュとして貼り付けられた足型を見て、「人」の存在を感じずにはいられなかった。それほど、人の体の一部を切り取った「形」は、生々しい衝撃をどこかに備えている。厳冬のヨーロッパで食料、衣服が不足する中、祖父母たちは地元の人々にも呼びかけ物資を収集した。友人に譲ってもらったり、在庫処分セールで探したりで集めた靴は、サイズと型に書かれた名前を確かめながら、一足一足大切に用意した。
 作者の母親を主人公の少女とし、彼女の一人称でつづられる日記形式の歴史フィクションは、人々の心の交流を現実味を持って伝えてくれる。人形や石鹸、缶詰など当時のイメージがよみがえる物品やコラージュ風に切り抜かれた写真から、人の温もりがじかに感じられた。実話が題材であるだけに、良心でつながった関係は尊く美しい。鳥類学者だった祖父母が靴を贈り続けたドイツの学者友だちは、ノーベル賞受賞者のグスタフ・クレイマー博士、コンラッド・ロレンツ博士だったというから、これも何だかすごい。
 それにしても、できる限りをを尽くして集めた靴の、存在感の大きさよ。人を支える靴は、命を支える象徴でもあったのだ。(asukab)
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One Thousand Tracings

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