At Gleason's Gym 世界でもっとも有名なジムを活写した絵本

 「ねえママ、これ読んで」――。ぐちゃりと崩れた絵本の山から息子が拾い上げた一冊は『At Gleason's Gym』。ヘビー級世界王者モハメド・アリやミドル級世界王者ジェイク・ラ・モッタらを排出したニューヨーク・ブルックリンにあるグリーソン・ジムを活写する、ドキュメンタリー風の異色絵本だ。
 「格闘技、ボクシングと絵本」の組み合わせに最初は面くらったが、作者のユニークな経歴と臨場感あふれるジムの描写に、ページを開けばたちまち引き込まれる。汗の匂い、サンドバッグをたたく音、ゴングの響き――少年シュガー・ボーイのトレーニングを通して同ジムをリアルに表現する写実画は、中学生だけでなくわたしの心もがっちりとつかんで離さなかった。ジムに5歳児クラスがあったり、9歳の女の子がボクシングのレッスンを受けていたり……。ボクシングって大人のスポーツだと思い込んでいたから自分には想像もつかないことだったけれど、それはただわたしが知らなかっただけで、体を鍛え克己する勝負の世界はこんな風に存在し、昔からずっと人々を魅了し続けていたのだと教えてもらった。
 作者テッド・ルーウィンは多くの写実絵本を生み出している実力派の画家である。彼がプロフェッショナル・レスラー一家に生まれ育ち、美術学校に通う学費調達のため17歳でプロレス界にデビューし格闘技をしていたなど、誰が想像できよう。「かっこいいじゃん」と息子がぽつり。ほんと、ママもそう思う。こういう人生こそ「かっこいい」に相応しいよ。水彩と鉛筆デッサンに表れるジムの風景を見ているだけで、作者がどんな十代を過ごしていたのか見えてくるような気がした。
 息子といっしょに格闘技の知られざる世界に触れた、日曜日の夜。(asukab)
amazon:Ted Lewin

  • 表紙を見た娘が「これは絵なのに、遠くから見ると写真みたいに見える」と画力を称えていました

At Gleason's Gym

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