Angela and the Baby Jesus アンジェラと赤ちゃんのイエスさま

 ピューリッツァー賞受賞作家フランク・マコートが『Angela's Ashes』(邦訳『アンジェラの灰 新潮クレスト・ブックス』)で描いた哀しい母アンジェラ。初めて取り組んだ絵本『Angela and the Baby Jesus: (Adult Edition)』では、アンジェラが6歳の頃のクリスマス・エピソードが語られる。今年読んだクリスマス絵本の中で一番光っていると感じた絵本。
 聖堂に飾られたキリスト降誕の木製人形を眺め、アンジェラの胸は痛んだ。飼い葉おけの中には、裸の赤ちゃんイエスさまが横たわっている。微笑んではいるけれど、冷え冷えとした聖堂でその姿は寒々しい。彼女はなんとしてでもイエスさまにあたたかい夜を過ごして欲しいと願った。それにはイエスさまを毛布でくるみ、家に連れて行くしかない。礼拝後、こっそり聖堂に残ったアンジェラは会衆が去るのを待ち、自分だけの密かな計画を実行に移した。しかし、見つかっては大変なので表通りを避けたにもかかわらず、兄のパットに見つかってしまう。
 アドベントに入ると降誕を祭る一シーンは、さまざまなところで目にする。教会により飾り方の趣はさまざまで、アンジェラの教会では等身大に近い大きなものが置かれていた。自分の懐にすっぽりと入る大きさのイエスさまを見て、彼女は深い憐憫の情を抱いたのだろう。寒さをしのいであげたいと切に願った少女の気持ちは、クリスマスを包む凍てつく夜空のように透き通っていた。
 アイルランド訛りを織り交ぜた情景描写は、やはりピューリッツァー賞作家ならではの味わい深さがある。子ども心の投影がアンジェラ、兄パット、母、神父とのやりとりから浮かび上がり、前作シリーズを知る人なら涙なしでは読めないはず。一粒の涙にきらりとクリスマスの星が光るような珠玉の名作だった。 
 なぜか同じ出版社から違う画家による同名『Angela and the Baby Jesus: (Children's Edition)』もあるのだが、わたしは冬の凛とした空気が伝わってくるようなローレン・ロングのイラストを好む。アンジェラの描写に限れば、ラウル・コロン画のほうが年相応に見えるかもしれない。(asukab)
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  • 特にカトリック信者へのプレゼントに最適。手のひらサイズの美しいクリスマス絵本

Angela and the Baby Jesus: (Adult Edition)

Angela and the Baby Jesus: (Adult Edition)