ねずみ と くじら

 ねずみ年だからねずみの絵本を……と思い『ねずみとくじら (評論社の児童図書館・絵本の部屋)』(原書『Amos & Boris』)を選んだ。
 独学で航海術を学び船を作ったねずみのエーモスは、憧れの大海原に出航した。「かじり号」で進む船の旅は、何もかもが夢のようで楽しくてしかたがない。「ひるもよるも、やまなす おおなみを あがってはおり、あがってはおり……なにもかもすてきで、エーモスは、げんきいっぱい、いきがいをかんじました」。ところがある夜、航海の最中、ふとしたはずみで海に落ちてしまい、ぽつんと一匹大海に放り出されてしまう。何日か漂流した後、疲れきったエーモスは、生きる望みを失いかける。「いっそ おぼれたほうが らくじゃないか。おぼれるのは、てまがかかるかな。こわいかな。ぼくのたましいは、てんごくにゆくだろうか。てんごくに、ほかのねずみが いるだろうか」――。寂しく恐ろしいことを考えているときに、エーモスの前に現れたのはくじらのボリス。ボリスはエーモスを助け、陸に返した。この後、年を取った2匹に再会が訪れる。今度は、ボリスが嵐に遭遇し、浜辺に打ち上げられてしまうのだ。そこでエーモスは……。最後の2文に泣かされる。

ふたりは、このさき2どとあえないことを しっていました。そしてぜったいに あいてをわすれないことも しっていました。

 陸と海、異なる世界に住む2匹が交わした友情は、それは気持ちのいいもので、清々しい「友だち」という存在がうらやましく思えた。そのまま人間社会に当てはまる構図が、この絵本の一番の魅力である。
 友だち……いないのだなあ。というか、わたしの場合、友だちは家族だから、これ以上欲しいと思えない。夫と子どもたちに囲まれていたら、それでいいという、こういう生き方はだめなのかしら。自分を豊かにし、支えてくれる存在は決定的に家族であり、これが大前提で、さらにさまざまな趣向が暮らしに彩を添えている。
 人間、全てを手に入れられるわけではない。だから、わたしに欠けるものといえば、友だちなのだろう。この場合、同年代の……と言うべきか。年配の方にはよく魅了されるのだが、同年で惹かれる人は身近にいない。
 id:ie-ha-te-naさんの「暮らしを豊かに彩るモノ・コト3つ」で気づいたところを書き出してみると、「五感」「(人との)コミュニケーション」「人間の生理現象」、そして自分が記した「時間」になった。友だちは、コミュニケーションに入りそう。自分に今一番欠けていることは、コミュニケーション。確かに。(asukab)
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  • 2匹の会話が魅力です。書影がないので原書ペーパーバックで 

Amos & Boris

Amos & Boris