The Arrival 異国の地へ

 『The Arrival』は、文字なし絵本。セピア色の鉛筆画が、異国の地で生活を切り開いた人々のドラマを淡々と描き出す。見返しには、実際にオーストラリアに移民したさまざまな人々の顔が並ぶ。アジア系、ヨーロッパ系、アラブ系、アフリカ系……過去に背を向け希望を求めて新天地に移り住んだ気持ちは、何色だったのか。
 移民の苦難、背景を描く絵本は、ファンタジーの設定を選び、架空の国が舞台になる。見たことのない文字、林立する不思議な建物、空に浮かぶ怪物など、暗示する現実は明らかである。はじめは違和感を抱いたファンタジー設定だが、出てくる人々の表情が、心情の深さ、暗い過去の重さを黙々と語り、そのうち表層の形などどうでもよくなっていった。
 郷愁は過去も今も、誰もが抱く感情である。人と時間をしっかりとつなぎとめる稀有の絵本だった。(asukab)
amazon:Shaun Tan

  • ミックスメディアを利用した装丁、演出が郷愁を誘う

The Arrival

The Arrival