三月ひなのつき

 伝承折り紙で十人飾りを伝える折り紙の本「折りひな」*1は、石井桃子さんの勧めで三人会により発行されたと言います。初版は1969年に福音館書店から。よって、折りひなの美しさを知る石井さんが、後世にその心を継承する意義を強く感じ勧められたということになるのでしょう。1963年に出版された石井さんの童話『三月ひなのつき (福音館創作童話シリーズ)』に、心のこもった端正な和紙の折りひなが登場するので、そんなことを思いました。
 これは「折りひな」の本を紹介してくださり、実際に豪華な作品を折られたid:vivisanさんから「あの折りひなが絵本にあるそうです。石井桃子さんの三月ひなのつきという絵本だそうです。……」と教えていただいたことからも察しました。偶然この童話のことを記したいと思っていた矢先だったので、不思議なつながりに胸が躍ったわけでもあります。
 お話は、お父さんを亡くし、お母さんと二人で暮らす女の子が主人公。桃の節句を迎え、よし子は豪華絢爛なお雛さまが欲しくて仕方がありません。でもお母さんはありきたりの段飾り雛を娘に買い与える気持ちになれませんでした。自分が小さい頃に持っていたお雛さまへの思い入れが強かったからです……。
 描かれるのは、人の心。「折りひな」の作者が語る言葉「折りひなは、ささやかな手すさびですけれど、これを折るとき、その指先まで、自分の心のぬくもりが伝わります。同時にそれは、おひなさまを愛し、人々を愛する心にもつながります」――の心そのものです。
 一時期、人の心をないがしろにする時期がありました。自分の場合、時間に追われる日々を送っているとこうなる傾向があります。「忙」=「心を亡くす」実態を何とも思わない無感覚に陥るわけです。心を亡くす状態は特に、メディアに翻弄されているとてきめんに表れます。つまり金銭の杓子定規で物事を見る行為を繰り返していると、無意識のうちに取り返しの付かない事態に至っているわけです。本当に大切なものは目に見えないんだよ――時間に囲まれた心が今、そんな風に語りかけてきます。
 弥生三月ひなのつき。三日が平日なので、お雛祭りの食会は今夜。蛤も、ちらし寿司も、鮭のお刺身も、みんな美味しくいただきました。(asukab)
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三月ひなのつき (福音館創作童話シリーズ)

三月ひなのつき (福音館創作童話シリーズ)