Zen Ties 俳句の世界

 『Zen Shorts (Caldecott Honor Book)』(邦訳『パンダのシズカくん』)*1で禅の心を説いた巨大パンダ、スティルウォーターさんが帰ってきた。2冊目『Zen Ties』では、カール、マイケル、アビーら子どもたちの実体験を交え、具体的に日常でどんなことが禅の実践になるかを提案している。この点は米国人の子どもたちにしてみれば、1冊目よりもわかりやすい――3兄弟が元気のないおばあさんを見舞うのである。彼女は気難しく子どもたちに恐れられていたが、元教師としての経験からスペリング・ビー(つづり大会)のアドバイスをマイケルにするなど人間としての深みや温もりを示していく。
 一方でスティルウォーターさんの甥っ子クーが、愛嬌たっぷりで可愛らしい。「ハイ(こんにちは)!クー」の挨拶が暗示するように、クーは俳句のみでお喋りをする子パンダだ。ちょうど娘が英語のハイク(5、7、5の17音節、3行で作る英詩)を作っていたので、クーのお喋りはなかなか楽しかった。16音節の箇所があり、二人であれ?と顔を見合わせたが、極少の言葉数でもっとも大切なメッセージを表現したい作者の意図とわかり納得した。英語による「字足らず」――。
 物(ここではカップ)を大切にしたい精神は、臨済宗の禅僧で俳人でもあった中川宋淵(1907-1984年)のエピソードから紹介されている。
 前回の"Zen Shorts"は手短かな禅思想として「short」を用いたが、今回は「tie」で、人と人のつながり、思いやりを強調した。shorts、tiesともに服飾関連の言葉で、このあたりの言葉遊びが大人に受ける理由かなと思う。「ゼン・タイ」に「全体」を重ね、全てを包む精神を投影したとも書いてあった。 
 子どもが老人を見舞うお話は心温まるけれど、絵本ではよく見かけるテーマである。しかし、あちこちに散りばめられた禅や俳句の思想が、特に平安を求める大人の感性を魅了するのだろう。各書評誌で評価が高かった。(asukab)
amazon: Jon J. Muth

Zen Ties

Zen Ties