石井桃子さんから思うこと――「好きを貫く」

 「よい本を子どもたちに届けたい」――この一心で児童書の執筆、海外作品の紹介に尽力された石井桃子さんは、つねに自分の心に火を灯してくださる存在です。もちろん作品を通してのみの出会いだけですが、その情熱を生涯貫いてこられた気高さに自分は今もただひれ伏すしかありません。
 時代を動かす人の人生には運命的な出会いが必要です。でも、このカテゴリーに属する人たちには、その炎のような熱さ故、自分から運命を呼び寄せる力も持ち合わせているのでしょう。101歳で天寿をまっとうされた石井さんも、そんな生き方をされたと思うのです。
 翻って自分の心といえば現在、「熱いもの」は何も存在しません。何かしなければ…という焦燥感はすでに失せ、ただ心が「温かいもの」に包まれているといった風です。たぶんこの常温は一生冷めることなく存在しそう、そんな予感さえしています。
 熱い気持ちではなくとも温もりの保たれた気持ちが広がっていれば、それはそれで石井さんの届けたかった世界でもあるのではなかろうか――。常温が保たれれば、それはそれで育つものがあるのだと感じられるようになりました。「好きを貫く」とは別に熱くなくともよかったのだと、不思議に納得していたりします。