How I Learned Geography 画家シュルヴィッツの軌跡

 異国へのロマンを誘う地図――。広げて六つの大陸と七つの海を見渡す開放感は、わたしも子どもの頃に味わった。目に入るへんてこな地形、カタカナを一文字ずつ追わないと読めない地名、海と山の色の濃さに映る地球の表情。地図は悠久の時間と結びついているようで、一度入り込むと地平線と水平線は果てしなく広がるばかりである。
 ユリ・シュルヴィッツの最新作『How I Learned Geography』にも、地図に魅せられた作者の幼少期が語られている。しかし、時代は第二次世界大戦勃発前後。戦禍と貧困による飢えがヨーロッパを苦しめていた1940年である。
 故郷ポーランドワルシャワが爆撃を受け、シュルヴィッツ一家は旧ソビエトトルキスタン(現在のカザフスタン)に移り住む。そこは、土の家並みが続く砂漠の町。すべてが灼熱の太陽に晒されていた。ある日、パンの替わりに父親が一枚の地図を買ってきた。空腹に負けていた幼いユリは父親の行動に内心激怒したけれど、この壁いっぱいに広がる地図が彼の辛い日々を和らげていくようになる。
 地図を見ながら、ユリが唱えたという詩が楽しい。

Fukuoka Takaoka Omsk,
Fukuyama Nagayama Tomsk,
Okazaki Miyazaki Pinsk,
Pennsylvania Transylvania Minsk!

 魔法の呪文のようなリズムある響きを口にして、ユリは地図の世界で戯れ始めた。闇の中にぽつんと光を放った地図の存在が、子どもの気持ちをどれほど明るく前向きにさせたことだろう。一枚の地図が暗い部屋を鮮やかに飾る中、イマジネーションに浸るひとときは永久にも思われたに違いない。 
 子どもの視点で巧みに描かれるシュルヴィッツの自伝的絵本。イラストは、作者を慰めた地図に見立てた多色使いで、子どもの発想を強調するかのように余白を意図的に組み合わせている。巻末に作者10歳の頃に描いたアフリカ地図の一部、13歳の頃に描いたカートゥーントルキスタンの町が掲載されていて、少年のまなざしがさらに近く感じられた。(asukab)

How I Learned Geography

How I Learned Geography