Thumbelina: Tiny Runaway Bride おやゆびひめの横顔

 『Thumbelina: Tiny Runaway Bride』は娘用と思ったのですが、自分のほうが夢中になっていました。まず本の表紙をご覧になってください。瑞々しい若草色を背景に、鮮やかな青緑色のシルエットと、白い手描きの文字が洒落ていると思いませんか。わたしの場合、森や野原の四季が美しいお話はもちろんのこと、作者エンサーによる装丁とイラストに魅せられたことも事実です。手描きと華麗なシルエットで登場人物たちの個性を描く上品なスタイルに、一目惚れでした。何やらアンデルセン自身による挿絵も、黒い切り絵を利用したクラシックなスタイルだったそう。どうりで、これを継承した可愛らしい古典調は、きらりと光る宝石のように作品を飾っています。いずれの見開きにもシルエット挿絵が見られ、たとえ小さなカットでもぐぐーんと想像力を呼び覚ますのですね。
 上で触れた手描き文字は実は、お話の内容ともつながっています。作中、おやゆび姫はお母さんから字の書き方を教えてもらい、小さな日記帳に日々の思いを記すのですが、このときの様子が非常に微笑ましいのです。間違った綴りをお母さんに直されたり、落書きのページが子どもらしかったりで、愛らしい無邪気さがたっぷり伝わってきます。現代の女の子をうなずかせる感性でシンデレラの心情を描いた一冊目『Cinderella (As If You Didn't Already Know the Story)』と同様、こちらでも、おやゆび姫とお母さんのやりとり、ヒキガエル母子の様子、ねずみ、もぐらのキャラクター、森の自然……が意外な結末とともに生き生きと描かれます。スイレンの葉に乗り、静かに流れを下っていく光景は優雅でうっとりさせられました。
 巻末の原作解説も非常に興味深いものでした。原作者アンデルセンの家は非常に貧しく、学校には遅れて入学したため(まわりな小さな子どもたちばかりで)学童期から辛い経験を味わったようです。「自分は他人と違う」という意識は、常に他者の世界を理解して描こうとする作風にも見て取れますね。目の見えないもぐらに視覚表現ではなく、聴覚、嗅覚、触覚を駆使して川の体験を話したおやゆび姫はとてもけな気でした。厳しい自然の姿を受け入れていく彼女の姿も、可憐です。
 2年生ぐらいから読めると思いますが、アンデルセンの世界観を含んで作品を理解するとしたら、やはり中学年以上向きでしょうか。娘は"a quick read for smart girls"と謳われたこちらや絵本よりも原作で読みたいと言い出して、原書のデンマーク語にもっとも近い訳と言われている一冊をさっそく注文しました。全30話掲載ということなので、今年はアンデルセン童話漬けの夏休みになりそうです。
 わたしはEnsorの大ファンになりました。2児の母親とのことで、このような創作ができるお母さんって、うらやましいなあと思わずにはいられません。子どもの気持ち(特に女の子)を思い、ワクワクしながら執筆したのでしょうね。自分の娘心と共通する部分もかなりあったのでは……と想像します。
 あ、でも、おやゆび姫誕生の場面で、パンッと火薬が弾け、魔法のように煙の上がる場面があるのですが、ここは芳しい花の香りに包まれる場面を期待していました。プレ・ティーンの読者受けを狙ったということなのでしょうが。(asukab)
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Thumbelina: Tiny Runaway Bride

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