A Boy Named Beckoning: The True Story of Dr. Carlos Montezuma, Native American Hero 北米先住民族の社会的地位向上に尽力した医師カルロス・モンテズマの生涯

 部族殺戮に遭った際、5歳で誘拐され、奴隷として売られ、まったく見ず知らずの社会で育てられた――。自分が同じ経験をしていたら、どんな一生を送っていたのか。あまりに波乱万丈の生きざまを知り、読後、衝撃が収まるのをしばらく待つしかなかった。ノンフィクション『A Boy Named Beckoning: The True Story of Dr. Carlos Montezuma, Native American Hero (Exceptional Social Studies Titles for Intermediate Grades)』は、北米先住民族の市民権獲得、社会的地位向上に貢献した医師モンテズマの伝記絵本である。
 読み進めていけばわかることだが、当時米国政府は部族間闘争を利用しながら、居留地への部族移住を促そうとしていた。そんな時代の大勢に翻弄されたヤヴァパイ族の少年ワッサジャ(「手招き」の意味で英語ではBeckoning)は奴隷として売られ、白人の里親の元で教育を施される。種々の体験は不幸だったものの、良心的な人々に囲まれた幸運から彼の運命が動き出す。英語は未知の言語だったにもかかわらず、ワッサジャは14歳でシカゴ大学に入学し、17歳で卒業。ノースウェスタン大学医学部で学び、医師として成功を収めた。しかし、その後、先住民族としての誇りに揺り動かされ、居留地に赴任しネイティブ・アメリカンの社会的地位向上に情熱を注ぐことになる……。
 黒人奴隷解放が実現した後も先住民族の存在は無視され、メキシコ系米国人、ヨーロッパ系米国人の奴隷で居続けた事実。居留地移住に関しては白人の嘘八百ストーリーが満載で、これを弱肉強食における文明の自然淘汰として見届けていいものかどうか、非常に胸が痛んだ。掘り起こせば米国政府の極悪非道な行為がごまんと埋まる土地では、医師モンテズマのように声を大にして不公平是正を証言していかないと、すべてが権力側に有利にと動くのである。
 親兄弟と生き別れになった場面は、本当に悲しい。しかし、幼少期の体験がモンテズマの血を熱く煮えたぎらせ、シカゴで医師として、大学教授として、安定した社会生活を送っていたにも関わらず、彼を故郷アリゾナの砂漠地帯に舞い戻らせた。
 画家がこれだけの情報を収集し、ノンフィクション絵本として描き上げた事実に驚き感心する。米国に住む者なら北米の大地に何が起きていたのかを知るべく、誰もが読むべき絵本ではないか。ワッサジャの子どもの頃の表情が、自分の知る南米出身の少年に似ていて、何度も写真を見つめ返してしまった。(asukab)
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