ぼくたちのかしの木

 温帯多雨林の森で「いい湯だな〜」――。ずっと夢に描いていた温泉キャンプ旅行が、この週明けに実現できた。目的地はオリンピック半島ポート・エンジェルス市から入るオリンピック・ホットスプリングス。水着で入るワイルドな露天風呂は、心と体に元気をもたらす最高のビタミン剤になった。
 温泉は、キャンプ地から直接歩けば2時間ぐらい。5分ほど車で上がり、自然道を歩けば40分で着く。驚くべきことに自然道は舗装されており、これが自然景観をそこねていると指摘するマニアックなハイカーもいた。けれども、途中、地震や土砂崩れの形跡そのままの箇所がいくつもあり、かなり危険かも……と感じていたので、子ども連れハイカーの安全を考えるとこのほうがいいとも受け取れる。露天風呂や自然道は土砂崩れや雪崩に襲われると跡形もなく消えてしまう場合が多く、歳月の中で変遷する自然の産物でもある。なので、どちらかというとこれは大人のアウトドアなのかもしれない。
 太古の姿をとどめる針葉樹林の森は、信じられない静けさに包まれていた。時折カサッと音を立てるのは野性の鹿、うさぎ、こりすで、鳥の声がほとんど聴こえない不思議な世界を味わった。エルワ川の渓流をたどるように自然道を進み、見つけた露天風呂は全部で5つ。立て札も何もなく、ただ脇に石垣が積まれていて、そんなあるがままの姿が魅力的だった。ハイキングで汗をかいていたので、ぱぱっと服を脱ぎ捨て、ちゃぷちゃぷと温泉の温度を確かめる。目的のお風呂に足をそうっと踏み入れたときの開放感は一言では表せない。浸かると体中が砂だらけなのだけれど、これがいいのだなあ。しばらく浸かっているとのぼせそうになり、下方にある氷のように冷たい渓流で体を冷やし、一休みしてからまたお風呂に浸かる……などということもしてみた。子どもたちにはちょっと熱すぎて、彼らは温度の低い露天風呂で遊んでいた。
 それにしても、湯船で寝そべり木漏れ日の向こうにのぞく空を仰げば、ここが天国〜である。世の中のすべてに感謝。主人といっしょに、しばし静寂の中で心も体も大自然に委ねた。
 夜はキャンプファイアを満喫。よい穴場を見つけ大満足である。この夏、もう一度訪れたいなあ。子どもたちのリクエストで、翌朝もハイキングで露天風呂。昼からは、ポート・タウンゼントの砂浜に出かけ、ひねもすのたりのたりかな……。流木の小枝ときれいな石をたくさん拾って帰ってきた。
 というわけで、森の絵本。『ぼくたちのかしの木』は、樹齢300年を数える樫の木を囲む森の姿を描く絵本。いとこのニッキーの家を訪ねた主人公「ぼく」と妹カロリーネの森観察記である。冒頭の季節は秋だけれど、兄妹は冬休み、春休みにも森を訪れ、その姿を伝えている。生きとし生けるものが皆、森の生態系から大きな恵みを受けているしくみがわかりやすい。今回レインフォレストを訪ね、一番に思い浮かんだ作品だった。残念ながら、邦訳も原書も書影なし。……書影が出ているようなので、遅ればせながら2011年2月1日に追加した。(asukab)
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ぼくたちのかしの木

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