The Black Book of Colors 点字の絵本

 もしも光が見えなかったら、人はどのような感性を用いて世界を形容するのだろう。
 大学のとき、ボランティアで目の見えない子どもたちのために絵本を作ろうとした。「自分なりのイメージで絵本を作ってみてください」とグループの主宰者からアドバイスを受け、さまざまな感触を持つ布素材を渡されたのだが、いつまでたっても作れない。手触りと切り抜く対象を自分だけで決めてしまっていいものなのか、イメージが交錯し混乱した。結局うやむやになってしまい、材料はずっと押入れの中で眠ったまま。今でも思い出すと自責の念に駆られ、胸が痛くなってくる。
 『The Black Book of Colors』には、黒だけで描かれる色の世界が広がる。文字を除き、すべてが黒を基調にした黒で描かれるのだ。横長サイズは、空間の果てしなさを示すのか。見開き左上に点字の文章があり、右下にアルファベットの白い文字が並んでいる。
 目が見えなかったら、「黄色」はどんな風に感じるのだろう。ここでは「ひよこのやわらかな羽根」のイメージで、ふわふわの羽根が凸凹突起のある表面加工のイラストに舞っている。どのページでも「色」のイメージが、黒の手触りだけで確かめられるようになっている。
 黒に囲まれているからこそ鋭敏な感性が研ぎ澄まされ、豊かな色のイメージに羽ばたこうとする。静謐な色の世界が、絵本の中に美しく佇んでいる。息を呑むイマジネーションの旅に誘われ、平安の中に時間が過ぎていった。
 原書は、2007年度ボローニャ国際絵本展ニューホライズン賞を受賞したメキシコの絵本。ベネズエラ出身の作者2人に、敬意を表したい。(asukab)
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The Black Book of Colors

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