きりの もりの もりの おく

 シルエットの映えるモノトーンの表紙に、色とりどりの文字が浮かんでいます。『きりのもりのもりのおく』――霧に覆われた幻想的な森から、いったい何が現れるのでしょう。

きりの もりの もりの おく、
そこに いるのは いったい だれ?

 半透明のオパーク紙に、黒く森の影絵が映し出されています。紙は擦りガラスのように透けるため、重なり具合からうっすらとした木々がいく層ものぞき、ページはまさに霧の中。中央には、影絵姿の誰かさんも見えます。
 好奇心いっぱいにページをめくると――、そこにはおとぎ話の登場人物が幸せそうに佇んでいました。黒とグレーがかった無色の世界に彼らだけ色が付いてお目見えするのですから、ここはカラフルな躍動感に包まれないはずがありません。しかも、水鉄砲で遊んでいたり、エンジン付きのほうきに乗っていたりと、ちょっぴり現代的な小物で味付けされていて、作者の遊び心も見え隠れします。ミステリアスでノスタルジックな世界がたちまち今風のスポットライトに照らし出され、クラシックとモダンの絶妙な組み合わせに主人も子どもたちも大喜びでした。
 原書は、『The Foggy, Foggy Forest』。言葉をふたつ繰り返すタイトルから、英語によくある「当てっこ遊び」を想起しました。この手の言葉遊びは、たとえばおばけ話やハロウィンなど、正体不明の怖さがテーマの本によく見られます。場所の前置詞と繰り返し言葉の「間(ま)」でミステリアスな雰囲気をかもして読者の想像力をかきたて、次のページで謎の正体を明かすのです。ちょっぴり、そんな気配も漂う作品でしょうか。邦訳では「きりの もりの もりの……」で繰り返すと、ムードたっぷりの演出になるのでしょう。
 幽玄でかつユーモアいっぱいの絵本は、9月に英国で刊行され、米国では11月に発売予定。
 子どもたちは宝物に触れるように、不思議な霧の森をのぞいています。(asukab)
amazon:Nick Sharratt

きりのもりのもりのおく

きりのもりのもりのおく