Traces あしあとをおえば……

 無いものを見る作業は楽しい。自然の中にひっそりと残された動物たちの「あしあと」を目にして、今さらながら足跡の魅力を確かめた。といっても絵本『Traces』でのことだけど。
 なにかが、だれかが、たった今までここにいて、ふといなくなった――あしあとだけを残して。見開きの最後に何ものかの正体をほのめかす一行とそれらしきイラストが残され、静かに思考がめぐりはじめる。かえる、きつね、かめ、へび……。余白の生きる控えめなイラストが擬音語の響きを際立たせ、波風が聴こえてきたり、草の香が渡ってきたり。かと思えば、とつぜん群青の空に一条の飛行機雲が走り、現代の夢想を思い知らされたり。
 太古の恐竜から今に生きる子どもたちまで、自然観察からはじまる作者のつぶやきは、イメージの連鎖をつづる一篇の詩である。無いものを見て想像を浮遊させ、気持ちを満たした心地よさが伝わってくる。
 画家は当地在住。たしかにワシントン州の風景が描かれている。寿司詰めにあるプラスチック製の緑の葉っぱや、小さな昆虫のキラキラシールがコラージュに使用されていて意外な印象。身近な素材のミックスメディアが新鮮だ。(asukab)
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Traces

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