The Christmas Rose クリスマス・ローズによせて

 『The Christmas Rose』は2年前に再版されて話題に上っていた、1920年代ドイツ初版のクリスマス絵本です。アドベント・カレンダー的な意味合いで出版され、その後絶版。画家エルゼ・ヴェンツ-フィエトルの娘さんたちがその存在を明かすまで、ずっと過去に葬り去られていました。誰も実物の絵本を持ち合わせていず、オリジナル原画は第二次世界大戦で紛失。編集者がスイスの古本屋さんでやっと見つけることのできた運命の絵本ということで、今年米国で英訳出版されたときも注目を浴びました。
 「もうよくならない」と悲観する病気の父親をなんとか助けたい――。そう願う幼いフリッツとグレーテルは、12月6日の夜にやってきたサンタクロースから「その香りを吸い込めばどんな病気も治る」という白いバラのことを教えてもらい、冬の王さまのとりでを目指します。厳しい冬の旅には、どんなできごとが待っているのでしょう。聖ニコラス日(12月6日)から一日一ページ、見開きでお話を追いながら24日のクリスマスイブまで続くドイツ式アドベントは、ふたりの冒険でつづられます。
 今週土曜日は聖ニコラス日で、息子の名前の日でもあります。今年はこの特別な日から24日まで、わたしたちもフリッツ、グレーテルといっしょに旅に出ようと決めました。困難を乗り越え救いの光を待つ想いはまさにアドベントにふさわしく、北国のクリスマスがまた違った角度から味わえるでしょう。
 ……ただ1920年代から1930年代にかけて活躍したという作家、画家の作品は、確かにドイツの子どもたちに愛読された名作なのでしょうが、どうしても時代背景が気になるところです。ナチス台頭の頃に読まれていたであろう絵本が、今ふたたび歓迎されるのか。米国で出版された理由は物語性が時代性に勝っていたからなのでしょうけれど、100%気持ちよく迎え入れられない人々が存在することも事実ではないかと……。
 たとえば、ヒトラーが好んだというワーグナーの楽劇がイスラエルでは1938年以来上演されていず2001年、バレンボイムがタブーを破ろうとしようとしたところ非難の声が上がり物議をかもした例など。芸術に過去の傷跡は醜く反映されます。東欧や中東の民族意識、またアジアでは日本と近隣諸国の関係を振り返ってみても、傷を負わせた側の文化は負のイメージとして永久に残り、人々の間では100年や200年どころで癒せるものではないでしょう。表層では一見、平和を装っていても。
 心のこもったすてきな絵本という印象を抱いた一方で、個人的に何となくナチスの影がちらついてしまい、またまたこんな感情が湧き出てきて悲しい……と反省したのですが。
 ドイツ版は一日一ページで大版全32ページ、米国英版は一日一見開きで全48ページの小さなサイズです。
 本日は、降臨節第一主日。聖堂には紫色のキャンドルが4本用意され、厳かにそのうちの1本に火が灯りました。今日から新しく始まる紫の季節。暗闇で光を待ち祈った人々の気持ちを自分にも重ね、しばし黙祷。毎年この時期は暗くてジメジメしていて、浮かれている子どもたちの傍らでなんとなく沈みがちなのですが、今年はなぜかクリスマスまでの流れを晴れ晴れと心待ちにしています。息子の名前の日が近づいているからでしょうか。聖ニコラス日には聖人の型抜きクッキーをたくさん焼き、子どもたちがサンタクロースとなりクラス中に配る予定です。考えるだけでワクワクしてきて、これこそアドベントの心持ちではないかと教報を読みながらうなづいていました。(asukab)
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The Christmas Rose

The Christmas Rose