おもいでのクリスマスツリー

 『おもいでのクリスマスツリー』は、毎年持ち回りで村のクリスマスツリーを用意するという米国アパラチア地方の一村を背景に、力強く生きる母子を描く。
 時代は第一次世界大戦勃発のころ。出兵した父親を待つ娘と母親が貧しくとも凛と背筋を伸ばし生きる姿が、今の時代に失われた気概を示している。日本でいえばさしあたり主人公ルーシーの母親は、明治の女といったところか。物質的に乏しくとも、豊かな心を抱き日々を生き抜いた人々の生き様に学ぶところは多い。歌を歌いながら雪の夜道の苦労を乗り切る場面、娘のために自分のウェディングドレスをほどきクリスマスギフトの人形を夜なべして作り上げるところなど、彼女の姿は強くて清らかで美しく、自分には到底かなわない。同じ状況に置かれていたら、自分もそのような選択をしたのだろうか。
 訳もすばらしい。当時のアパラチア地方の文化と気質を淡々と伝え、作品に慎ましやかな品格が備わった。
 100年近く前の米国のクリスマス。厳しい時代を生き延びたクリスマスは、ヨーロッパ系米国人の誇りでもあるだろう。ドイツ・英国系米国人――主人公ルーシーたちはドイツ系かな?――の好みそうなお話である。(asukab)
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The Year of the Perfect Christmas Tree: An Appalachian Story

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