Tin Lizzie 今年のクリスマス・プレゼント その4

 『Tin Lizzie』は、主人へのクリスマス・プレゼント。趣味にも授業にも使えそうな、自動車がテーマの絵本です。 
 自動車工のおじちゃんが孫のリジーたちといっしょに直した車は、フォード社のモデルT(愛称ティン・リジー)。今からちょうど100年前(1908年)に開発された同車は大量生産に成功し、庶民にも手の届く車として社会変革の発端を担いました。
 そんなアンティーク車の歴史を背景に、ティン・リジーで遠出したおじいちゃんと彼らの会話が弾みます。100年前はどこへ行くにも馬車だったけれど、今は車が主流。余暇としてのドライブも、今では交通渋滞、排気ガス公害と問題が山積しています。「でも、大きくなったら、ぼくも車がほしい」「そうして石油がなくなったらどうなるの?」――容易に回答の得られない疑問ばかりが飛び出します。でもさすがは賢者のおじいちゃん。答えの見えないやりとりの中で的確に指摘する真実は、今後も変わることがありません。「これだけは、はっきりしているな、(文明社会には)輪っこがなくちゃはじまらない」。こうして孫たちは、お昼ねするおじいちゃんのかたわらで、車社会の将来について語り合うのでした。
 なんと万能な絵本でしょう。車社会を築いたフォード社の歴史を紹介し、現代車事情の問題点を指摘し、同時に未来に向けてどうあるべきか論議のきっかけを与えてくれるのですから。おまけにペン画と水彩でさらりと描かれたイラストも飛び切りいかしています。表紙見返しには、1769年の蒸気車に始まり現代の自家用車まで自動車の歴史が一目でわかる愉快なイラストを掲載。トヨタのミニバンも紹介されています。裏表紙の見返しには、車社会の問題点、解決案が。フォード社の歴史は巻末に解説され、車好きの人には至福の一冊になっています。
 折りしも米国政府がビッグスリーに対し金融支援を施し、経営破たんを免れたばかりのタイミングです。ディスカッションとして社会科でも使ってもらえそうですし、車の歴史も楽しめるだろうし、ポンコツ車を解体して整備してしまうほど車好きでかつ自然環境保全主義者の主人には文句なしの贈り物でしょう。
 ただ、またつまらないおまけが……。フォード社創立者ヘンリー・フォード(1863-1947)は、反ユダヤ主義者として知られています。ヒトラーとも関係が深く、またまた絵本を開き、複雑な思いに浸っていました。
 しかしながら、歴史は歴史。文明の本質を伝える絵本は、一級品のできばえです。(asukab)
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Tin Lizzie

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