How to Heal a Broken Wing ある家族のポートレート

 ボブ・グラハムの絵本*1,*2には暮らしの風景が何気なく描かれており、そこから見て取れる人の生き方がしんみりと豊かな味わいを与えてくれます。『How to Heal a Broken Wing』(邦訳『きずついたつばさをなおすには (児童図書館・絵本の部屋)』)も、やはりそんな絵本でした。
 一羽のハトが高層ビルの窓ガラスに体当たりし、飛べなくなりうずくまっています。道行く人は誰一人、怪我をして地上に横たわるハトのことなど気にかけず、それぞれの目的地を目指し足早に去って行きました。ただ一人、小さな男の子ウィルを除いては。ウィルはお母さんのマフラーでハトを包み家に連れて帰ります。そして、お父さんもいっしょになって、一家みんなでハトの介抱をするのでした。
 お話は、ただそれだけ。でも、コマ割りで描かれる一家3人の姿にハトを想う愛情が深く描かれ、胸を打つのです。「自然とのふれあいが薄れつつある時代に、次世代の子どもたちにもまだ、思いやりと共感によって傷ついた羽がいやせる希望の持てることを示したかった」とは作者の言葉。心が健康で柔らかければ、きっと誰もがウィル少年のように負傷したハトの存在に気づき、思いをかけるのでしょう。 
 一家の住む環境にもまた、親近感を覚えます。決して広くはない一部屋を見わたせば、壁のポスターやソファなどそこに彼らの日常風景がにじみ出ていて、ハトを拾ってきた理由も肯けるのでした。
 作者はオーストラリア在住。シドニーの市街地が懐かしく感じられました。
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How to Heal a Broken Wing

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