Home on the Range: John A. Lomax and His Cowboy Songs 民謡収集に捧げた生涯 

 好きなものに魅せられて、一生を捧げる人生は美しい――。カウボーイ・フォークソングを集大成した米国の音楽学者で民俗学者、ジョン・エイヴリー・ロマックス(1867-1948)の伝記絵本『Home on the Range: John A. Lomax and His Cowboy Songs』を読んで、しみじみと感じた。同時に、うらやましい、とも。もちろん人生、山あり谷ありで、後世から振り返るほど道は平坦ではなかったことは承知の上で。
 テキサス州で育ったロマックスは少年時代から人々の口ずさむ生活歌に魅せられていた。誰が作ったの? メロディは? 歌詞は?――素朴な疑問の答えは簡単に見つからなかったが、日々農作業や家事を手伝う中、フォークソングの調べは少年を魅了する。そして遂には、カウボーイや旅人たちから歌詞を教えてもらい、紙に書きとめ、自らのささやかな楽しみとしてどんどん収集していった。
 ところがテキサス大学在学中、英文学部の教授にフォークソング・コレクションを見せると、「無価値、ただの民謡じゃないか」と軽くあしらわれてしまう。傷ついたロマックスはその晩、歳月をかけて書きとめた歌詞集をすべて焼却した。ああ、もったいない! しかし、その後、彼には運命の出会いが待ち受けていた。教師として働いた後、ハーバード大学在学中に出会った教授が、民俗学としての民謡の価値を認め、広く収集するようにと後押ししたのだ。心強い支援を得ると、ロマックスの民謡探しの旅が始まった。新聞で情報を募り、ラッパ型をした録音機エジフォンを携えて全米中を訪ね歩き、来る日も来る日もフォークソングの録音に努めた。ときにはテキサスの強面が並ぶサルーンで、ときには放浪の旅人から。あるカウボーイから教えてもらった歌など全部で89番まであり、「そりゃ、歌えんな。テキサスからモンタナまで旅するぐらい長いんじゃよ」「その古い角みたいなもの(録音機のラッパ)で顔を突きたくないから歌わんよ」などなど、録音作業は紆余曲折を経た。
 このときロマックスが続けた伝承作業は後に高く評価され、元奴隷の歴史証言として口承を残す連邦政府ライターズ・プロジェクトの主任を務めることにもなる。
 カウボーイソングの魅力は、抑揚のあるメロディと、明るいヨーデルの響き、そして日常や人生を哀切とともに語る、ときにユーモラスな歌詞だろうか。ロマックス自身も、歌うのが大好きだったらしい。少年時代の思い出が米国の歴史を支える貴重な働きとなった生涯に、拍手を送りたい。絵本には、全部で15編の歌詞がほぼ各ページに紹介されている。
 日本で言えば、柳田國男のような働きをした学者。絵本で紹介されるところが、米国的かもしれない。
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Home on the Range: John A. Lomax and His Cowboy Songs

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