ヘンリー フィッチバーグへいく

 『ヘンリー、フィッチバーグへいく (世界傑作絵本シリーズ)』(原書"Henry Hikes to Fitchburg")は、思想家でナチュラリストのヘンリー・デイビッド・ソロー著「ウォールデン-森の生活-」を基に、人間と自然のかかわりを描いた絵本です。登場するくまのヘンリーは、もちろんソロー自身。4冊ヘンリー・シリーズとして出版されている中、最初の本書はフィッチバーグに歩いて行ったヘンリー(ソロー)と、鉄道で向かった友人の様子を、当時の生活文化をたっぷり織り交ぜて紹介しています。

ヘンリーと ともだちは
フィッチバーグの まちは
どんなところか
みにいくことにしました。
フィッチバーグまでは48キロです。


ヘンリーが いいました。
「ぼくは あるいて いきたいな。
あるくのは たのしいよ。
それに いますぐ しゅっぱつすれば
はやく つくんだよ」


ともだちが いいました。
「ぼくは きしゃに のりたいな。
はたらいて きしゃのキップを かうんだ。
どっちが さきにつくか きょうそうだね」

 こうして、左ページには薪運びをしたり、お掃除、ペンキ塗りをして10セント、5セント、15セント……とこまめにお金を稼ぐ友だちの姿。右ページには川を渡り、小枝で杖を作り、花摘み、ブラックベリー摘みをしながら旅するヘンリーの姿が続きます。友だちは切符代の90セントのために時間を費やし、ヘンリーは目にする自然と戯れながら、あと40キロ、あと30キロと、長閑なひとり旅を楽しんだのでした。この対照的な見開き図、子どもは大好きでしょう。
 訳者は自ら山林に小屋を建て自然との共存を実現されている動物学者、今泉吉晴さんです。ゆえに絵本のことばにもその背景が反映されるのでしょう。ひとことひとことがとても滑らかで、ヘンリーや友だちの人間性がユーモラスに表現されています。
 あとがきの中に、おもしろい指摘がありました。

 ともだちが、フィッチバーグへ汽車に乗っていこうと思ったのも、理由があります。1844年、コンコードにフィッチバーグ鉄道が通るようになったころは、鉄道はまだめずらしい乗り物で、だれもが、技術の進歩の象徴である汽車に乗ってみたかったのです。また、当時の人たちは、約束の時間をあまり守りませんでした。けれど、汽車の発車時間に遅れるわけにはいきませんから、だんだん約束の時間を守るようになったとヘンリーはいっています。……

 時間に束縛されない、今から150年前の暮らしぶりが伝わるこの部分は、何ともほほえましいと言うか。文明開化は、同時に人間らしさの崩壊開始でもあり、便利・不便の裏返しとどうかかわるのか、再度視点を諭してもらいました。
 自然を愛し米国における環境保護運動の先駆者として信奉されるソローの生き方は、今でも人々に大きな影響を及ぼしています。ヘンリーの絵本シリーズで、人間と自然の原点をあらためて確認できることに感謝です。
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ヘンリー、フィッチバーグへいく (世界傑作絵本シリーズ)

ヘンリー、フィッチバーグへいく (世界傑作絵本シリーズ)