Addis Berner Bear Forgets 雪の日のくまさんは……

 都会に出てきたくまのアディス。街はあまりにも巨大で騒がしく、ふと、彼は何のために街にやってきたのか忘れてしまった。そこで出会う人々の喜怒哀楽は、クリスマスを迎え、一年を振りかえるのにもお似合いの光景だ。ひとりぼっちの街角には、アディスと同じように、過去の忘却を嘆く人々があふれていた。どうして、ここにいるのだろう。何のために、誰のために。
 ところが、思いも寄らない春が待っていた! レンガ作りのビルに張られた一枚のポスターには「トランペットの名手、くまのアディス 無料野外コンサート」の文字。そうだった! 自分はトランペットを吹くためにやってきたのだ! でも、引ったくりに遭い、トランペットを失くしてしまったアディスには、もう希望も何も残っていない……。 
 冬から春への移ろいを、アディスの心情と水彩ペン画に重ね、淡くしっとりと描いた絵本だった。ジョエル・スチュワートのあまりの画風の変化に一瞬、誰の絵なのか分からなかったほど。というか、コミカル路線だけでなく、もともとシリアスな線描も得意としていた人だったので、アディスの詩的な世界にも納得はいったけれど。
 『Addis Berner Bear Forgets』は真正面から、孤独な人生に向き合っている。出会いから生まれる人情を、たっぷりと感じさせてくれた。
 こちらの書影は、ちょっと色が鮮やか過ぎかな。実際は、もっと薄っすらとくすんでいる。ぽつぽつと降る表紙の雪には、ツルツルの特殊加工が施されている。英国の絵本。
amazon:Joel Stewart

Addis Berner Bear Forgets

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