A Place Called Kindergarten ようちえんっていうところ

 毎日、ぼくたちと遊んでくれたトミーが、今朝はやってこない。どうしたのかな。…「ようちえん」っていうところに行ったんだって。夕方になり、トミーが帰ってきた。そこがどんなに楽しいところで、そこでどんなことを学んだのか。トミーはいつものように、親しみを込めて語り始めた。
 絵本『A Place Called Kindergarten』(邦訳『ようちえんっていうところ』)に、幼稚園の場面は出てこない。かわりに、はじめて幼稚園で過ごした充実の一日を、トミーがなかよしの動物たちに報告するのである。
 本作の魅力はたくさんある――おおらかで純粋な心の持ち主トミー、彼の成長を育んだ農場の動物たちとまわりの自然、トミーと動物たちの親密なつながりなどなど。動物同士の会話のおもしろさも、おっとりとした田園生活を味わい深く伝えている。
 それにしても、絵本には子どもの理想的な成長がみごとに描かれている。 
 自然に囲まれること、動物と暮らすこと、歌に親しむこと――。この3つで子どもの心を育めば、あとは何もいらないだろう。歌と記した理由は作中、トミーが動物たちに歌を歌って聞かせる場面があり、あらためて言葉や抑揚、リズムの偉大さを納得した。トミーのような子どもは就学したら何でも興味深く吸収し、すばらしい学びを実現する生徒になるはずだ。自分の職場の子どもたちとは180度異なる世界に住むトミーを知り、同時に、どうにもならない現実を嘆くばかりなのだけれど。
 ところどころに描かれる動物たち(馬、羊、めんどり、牛、そこに犬)のおしゃべりが、やはりとびきりユーモラスでかわいい。トミーがABCを教えてあげたら、H以降がどうなるのか、今もみんなで心待ちにしているのだ。みんなトミーが大好きで、トミーもみんなが大好き。このふれあいだけで、十二分に満たされる。トミーのご両親は正しい方たちだと教えてもらった。ふだんは保守層を嫌う自分なのだが、トミーの心にはそんな色眼鏡のかけらもない。
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A Place Called Kindergarten

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