あかいはな さいた

 『大型絵本 あかいはなさいた』は何よりも、「赤い色」に魅せられる自然界の真理を証明する。人の心を吸い込むように赤い花たちはみな、自分の個性をその色に託していた。
 表紙の松葉ぼたんがまず、懐かしい。この花は子どもの頃、どの家の玄関先でも、よく見かけたものだ。ちょっと「ひじき」のようにも映る容姿は、自分にしてみると幼少期のシンボルだったかもしれない。何しろ放課後、遊びに出かけるときのお見送り係が、松葉ぼたん。「いってらっしゃい」「おかえりなさい」の花だった。
 そしてページをめくれば、大きく、見開きいっぱいに描かれた美しい赤い花たちが、自己存在を、ときに可憐に、ときに大胆に主張し始める。潔く花ごと落ちる寒椿、白毛の覆いが不思議に思えた翁草、咲いた咲いたのチューリップ、母の日に一輪カーネーション、種集めがたいへんだった鳳仙花、父の薔薇園で香る薔薇、祖母の愛した、少女のような撫子、堂々と咲き乱れる葵、畑に揺れる刺々しいアザミ、お寺の池に涼やかに浮かぶ蓮、鉢植えのベゴニア、夏の日の学級花壇を飾る百日草――。
 なんだか子ども時代の情景を、一ページごとに映し出すスライドショーを見ている気分だ。あの頃は気づかなかったけれど、わたしのまわりには花がたくさん咲いていた。祖母や父が植えた花、畑でよく見かけた花、母が飾った花瓶でおすましの花。花に囲まれた、しあわせいっぱいの子ども時代。
 ちょっと感傷的かな。でも、素直に表現すれば、豊かな幼少期をどうもありがとう――そんな気持ちにさせられた。
 この「赤」は誰の心にも入り込む色。硬筆で丁寧に運ばれたかのような、初々しい言葉の連なりといっしょに、小さな読者の心にも深く残る色となる。春を待つ冬のおわりに、ぜひ開きたい絵本。そして、赤い花のこぼれる日々を思い描きながら、明るい季節を迎えたい。
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大型絵本 あかいはなさいた

大型絵本 あかいはなさいた

id:gintacatさん、ゼミ生卒業のお祝いに。