ヘンゼルとグレーテル くらべっこ

 色を堪能する絵本として引かれているのが、バーナデット・ワッツの作品だ。最近のやさしいパステル調も魅力だが、不透明水彩で心の闇を主張する昔の画風も捨てがたい。
 岩波書店から出ている1973年版の『ヘンゼルとグレーテル (大型絵本)』では、ワッツの特徴である色の重ね、合わせの妙味が濃い秋冬色を基調に楽しめる。登場人物の大きくぱっちりとしたお人形風の目など、自分の幼少期によく親しんだ絵本を想起するから、やはり描き方は70年代風と言えるのだろう。ほのかに昭和が思い出される子どもたちの顔は、懐かしさと同時に、今なら再びリバイバルで人気を博しそうなレトロ調の容貌である。
 一方、BL出版から出ている2006年版の『ヘンゼルとグレーテルのおはなし (グリム絵本)』は、鉛筆とパステルや透明水彩で着色される最近の画風で描かれる。色の重ねはもちろん美しく、フワフワと軽やかで、淡い春夏色を基調にしている。 
 どちらもそれぞれの良さがあり、個人的に2冊ともお菓子の絵が見たくなったら取り出すのだけれど、これがなかなか心地よく気持ちを満たしてくれる。構図的には、73年版のほうが工夫されているだろう。その意味で大人受けしそうか。06年版は、怖いお話にもかかわらず終始明るいので、小さな子どもに受けそう。当然、決めつけなどできない。秋冬色と春夏色のヘンゼルとグレーテル2冊の味わい方は、多色使い、彩りで知られるワッツの2冊だからこそ可能と言えそうだ。
 時代を経て生まれた差異を探ると、ぐるぐる自分も森の中を彷徨うように、さまざまな思いの茂みに包まれている。いずれも開くことが、密かなよろこびとなっている絵本。

表紙がちょっと違う

 岩波版の書影がないので、原書"Haensel und Gretel"で。でも、原書と日本語版の表紙は、少し異なります。日本語版では――①ヘンゼルとグレーテルが斜め後ろ向きでお菓子の家を指差しており、顔が見えない。②上部に見える屋根は、屋根型(台形)ではなく一面お菓子の瓦で覆われている。③原書の左前に見える光の当たった明るい花々は、日本語版には見られない。描き直したか、あるいは描き足したのかもしれない――。でも、こちらのイラストで、ヘンゼルとグレーテルのぱっちりお目目が確認できてよかった! 

Haensel und Gretel

ヘンゼルとグレーテルのおはなし (グリム絵本)

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