No! いじめも戦争も根源はいっしょ

 「やめて!」と、表紙の少年が叫んでいる。"No!"で描かれるくすんだ街の光景は、第二次世界大戦時のヨーロッパの街角に見えた。「親愛なる大統領さま……」――冒頭で、ペンを手にした少年が大統領宛てに手紙を書き、封をして投函しようと外に出る。そこで見る戦闘機の飛来、憲兵の取り締まり、言論の統制の場面は、まさに暗雲垂れ込める戦時下の色調だ。
 当然、反戦の絵本なのだろうと読み終えたところ、180度間違っていることに気がついた。作者は小学校でのいじめの現状に胸を痛め、いじめ撲滅のために本作に取り組んだという。戦争といじめ、何という視点! 確かに接点は明らかだ。
 最後に手紙の一部が紹介されるのだが、もうこれほど単純明快にいじめ(同時に戦争)を伝える表現はないだろうと思えた。「…ぼくたちの学校にはルールがあります。人を押さないこと、叩かないこと……」――。相手を思いやる心豊かな社会生活を送っていれば、いじめなど起こらないはずなのに、なぜ人間はいつまでたっても愚行を繰り返すのか。答えはもちろん「人間だから」なのだけれど、「まあ、複雑怪奇にいろいろ入り組んでいるのですよ……」と、どこかで誰かがささやくような声も聴こえてきたり。大人が手本になれないのに、子どもに示せるはずがない。
 設定もメッセージも、多々考えさせられる。文字表現は「ノー」のみの、希代の文字なし絵本だった。
 仕事が忙しくなり絵本手帖からしばらく離れていたけれど、今日書き始めてみて、絵本からたっぷりビタミンをもらった感じ。やっぱりいいな、絵本って。
amazon:David McPhaill

No!

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