Pippo the Fool  フィレンツェの鬼才ピッポのお話

 イタリア・ルネサンスの建築家、フィリッポ・ブルネレスキの伝記絵本"Pippo the Fool (Junior Library Guild Selection)"に、しばし感動。公証人の家業を継がず、建築家として初期ルネサンス様式を確立した俗称「おばかのピッポ」が、フィレンツェのサンタ・デル・フィオーレ大聖堂のドーム建設に挑み鬼才を証明する。この円蓋は現在でも世界最大規模というから、当時前代未聞だった二重構造工法がどれほど競争相手を凌駕していたか。確固とした歴史が卓越した技術を鮮やかに物語る。1420年の着工から費やした歳月は16年。計り知れない信念と体力が不可欠だったはず。娘がどうして「フールなの?」と不思議がった。天才、鬼才……は、そう呼ばれる宿命にあるものなのだ。
 ピッポは1403年、彫刻家ロレンゾ・ギベルティとの制作競技に敗れ建築を目指したというのだが、絵本ではそのギベルティがドーム建設の共同制作者として登場し、嫌味たっぷりのライバルとして描かれる。ちょっと笑える場面もあって面白い。ピッポ自身は小柄で、醜く、気難しがりやだったらしい。そんなどう見ても冴えない一人の男が、これほどにまで荘厳で優雅なドームを作り上げたのだから、ニックネームの「フール」には神がかり的な紙一重の意味も含まれていたのだろう。
 バルセロナ出身の画家によるイラストが、またよいのである。南欧の香りが、石造りの建物やレンガの温もりにそのまま表れている。初期ルネサンスを描く絵本でもあるので、背景には当時の有名作品からシンボル的な対象物がこっそり添えられていたり。西洋絵画の父と呼ばれるジョット・ディ・ボンドーネの僧侶とロバ、マサッチオのサル、ドメニコ・ギルランダイオのイノシシとか。(後者の制作年月はドーム着工以降なので、少々疑問を抱いたけれど、まあ、時代を象徴する一場面ということで。)
 城壁に囲まれた石畳の街並みに、いつか佇んでみたいとは思うのだが。現在のところは、夢のまた夢。
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Pippo the Fool (Junior Library Guild Selection)

Pippo the Fool (Junior Library Guild Selection)