ふゆのようせい ジャック・フロスト

 ……と、タイトルは日本語で書いたものの、実際に読んだのは英版"Here Comes Jack Frost"のほう。ずっと読みたいと思っていたのだ。もう、すごくよかった。作者の感性に感心しっぱなしだった。
 友だちの動物たちが冬眠に入り、遊び相手が誰もいない。すると退屈していた男の子の前に、冬の妖精ジャック・フロストが現れた。いっしょに遊ぼう! 外に出て、スケートをしたり、ソリ遊びをしたり、雪合戦も。この場面は雪遊びの楽しさが全開で、寒さなど忘れて子どもが夢中になるところ。ジャック・フロストとの約束は「あたたかいものの存在」を知らせないでねということだったのだけれど、春が近づいてきたある日……。
 ジャック・フロストと言えば、レインボー・マジック・シリーズでは悪役だった。でも、冷たい冬の意地悪さんというイメージが作者の手にかかると、いらずら心に満ちた気さくな冬の妖精に変わるのだ。
 "Ghosts in the House!"(『おばけやしきにおひっこし』)に引き続き今回も、切り絵の妙味が生きている。雪や霜、氷の冷たさが、白く切りとられた薄紙の透明感に表れて美しい。この儚い美しさが背景の青と重なり、澄んだ冬の情緒をかもし出すのである。詩情豊かに、ところどころ遊び心といっしょになって。笑い声の響く、清々しい空気がそのまま伝わる空間である。
 言葉のリズムも印象的だった。ジャック・フロストと男の子のやりとりが軽快で引き込まれる。ジャック・フロストが遊びに誘う場面、してやったりの男の子の表情に読者の子ども心はくすぐられっぱなしだろう。そして、何と言っても最後がいい。ふっとジャック・フロストが消えてしまうあの「間」と、その後の余韻。これは冬の定番絵本にならないはずがない。前にも書いたけれど、こう、なんというか、英語圏の常識にとらわれない発想が、アジア(というか日本)風キャラクターのかわいらしさと絶妙なハーモニーを生み出しているというか。ストーリー設定、展開、キャラクターが魅力的で、丹精に表現するのだから、広く受け入れられるのも当然である。
 表紙にはキラキラ銀の加工も施してある、冬のスピリットに満ちた一冊。コハラさんの絵本はこれからずっと集めなくちゃ。
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Here Comes Jack Frost

Here Comes Jack Frost

ふゆのようせいジャック・フロスト

ふゆのようせいジャック・フロスト