In the Belly of an Ox: The Unexpected Photographic Adventures of Richard and Cherry Kearton 自然科学に新しい道を示したキアトン兄弟

 上記フェリシア・ボンドとよく間違えてしまうのが、こちらのレベッカ・ボンド。彼女の水彩画は筆運びが軽快で、そこから生まれる楽しさは雪やドーナッツの絵本でもおなじみだ。なので、"In the Belly of an Ox: The Unexpected Photographic Adventures of Richard and Cherry Kearton"を手にして、へえ、こういうノンフィクション絵本も手がけるのか……と、視点がぐるり360度回る新鮮な印象を抱いた。水彩の美しさはもちろんなのだけれど、フィクションでないことを思うと、見開きに広がる英国の田園風景がさらに透明感を持って迫ってくる。ページから青く繁る草原の風がわたってくるような、心地のよい水彩画。
 キアトン兄弟は19世紀後半に活躍した英国ヨークシャー出身の写真家である。ロンドンで印刷出版の仕事に携わりながら、休みになると田舎に赴き、野鳥や鳥の巣、卵など自然界のありのままを撮影し続けた。その熱心な取り組みぶりからは、好きだからこそ没頭する姿が浮き彫りになる。
 表紙のこの牛は、実は特注で作った剥製張り子の牛。この中に隠れながら被写体に接近し撮影に成功したという、彼らならではのアイデアだった。中に入ったまま牛がひっくり返ってしまい、相棒が戻るまで長時間さかさまのまま待たなければならなかったこともあったそうだ。ほかにも羊の張り子があり、首を長くすえて遠方を見つめるウソッコの動物の表情がほほえましく思えた。
 彼らの出した写真集は、自然科学に新たな方向を示したと博識者から大絶賛される。「好き」が結実して「人生」を作った理想的な生き方だった。巻末に彼らの撮った写真が紹介されている。これら、ほわほわの雛鳥、卵群などの写真をを眺めていると、心底自然に魅せられていたのだとあらためて思い知らされる。
 英国の田園、野生の動物、好きな写真……いいなあ、と。100年前だったから可能だったのだろうか。今なら知りすぎていることが多すぎて、夢中になることすら罪に感じてしまう。「好き」で結果的に社会に還元できるような、「何か」。そんなものを求めて。
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In the Belly of an Ox: The Unexpected Photographic Adventures of Richard and Cherry Kearton

In the Belly of an Ox: The Unexpected Photographic Adventures of Richard and Cherry Kearton