The Frog Who Wanted to See the Sea 「井の中の蛙大海を知らず」の絵本

 浮世絵風のイラストに、小さな池に住むカエルが大海を目指す……とくれば、これはもう日本通であろう作者が「井の中の蛙」を絵本化したに違いない。そんな予想で"The Frog Who Wanted to See the Sea"を開き、冒頭であらためて日本の風景を眺めている錯覚に陥った。
 繊細な線で描く、色を抑えた平面世界。そこに佇む蒲、杜若、蓮などの色彩、陰影は、1969年に米国移住したというフランス人画家の、個人史を証明しているかのようである。この風流さは絶対に、印象派、浮世絵に通じている証拠。
 一方で主人公のカエルはアリスと言い、たっぷりとヨーロッパ的な印象を与えてくれる。ここでもう、カワイイギャップに降参という感じになっていた。静謐な浮世絵の平面に、何だかおちゃめなカエルが一匹。小さなサイズといい、幸せそうな瞳といい、池のことなら何でも知っているよと自慢げのアリスが、たまらなく可愛らしい。池の端から端までけり足28回で泳ぐ、とかね。
 そんなアリスがある日、四季の移り変わりとともにトンボやかもめの姿が見えなくなることに興味を抱き、かもめの話した「海」を見てみようと旅に出る。蓮の葉一枚を絨毯のように丸めて、川をたどっていくと……。
 目に入る風景はパリの街で、川はセーヌ川だろう。和の風流にヨーロッパの街並みが融合して、まさに不思議な光景の展開となる。背景の自然をつづる詩的な文章も、効果的にイメージを引き立てる。
 唐突に魔法らしきことが起きて驚いたけれど、そこはファンタジーと考えたら腑に落ちるかな。しっとり落ち着いた絵本。小さな小さなアリスの姿が、娘のお気に入りだった。
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The Frog Who Wanted to See the Sea

The Frog Who Wanted to See the Sea