Henry Aaron's Dream 若き日のハンク・アーロン

 マット・タバラスのベースボール絵本にはハズレがないこともあり、"Henry Aaron's Dream"に注目した。今回はストーリーではなく伝記絵本。正統派のノンフィクション絵本である。
 MLBの真のホームラン王*1ハンク・アーロンを描くと聞けば、誰もが華々しかったブレーブス時代を思い描くのではないか。作者も当初はそう構想していたが、アーロンの経歴をひも解くうちにメジャーデビューする以前にこそ意義ある足跡があったと理解し始める。
 1940年代のアラバマ州モービル。「白人専用」の札が下がるグラウンドを横目に、ヘンリー少年は大きな夢を抱く。12歳のとき、近所に「有色人種専用」のグラウンドが完成し、学校が終るとヘンリーは友だちといっしょに野球に明け暮れた。翌年1947年、初の黒人選手ジャッキー・ロビンソンがブルックリン・ドジャーズからメジャーデビュー。グラウンド上で人種差別と戦い続けたロビンソンの存在は、歴史が物語るように、その後のヘンリーの人生にも大きな影響をもたらした。ニグロ・リーグからブレーブスのマイナー・チームを経て、彼自身のメジャー入りは1954年。ロビンソンと同じように脅迫を受けながらも、チームの主軸となり瞬く間にスターダムにのし上がる。
 驚いたのはべーブルースの持つホームラン記録を抜く70年代半ば、「黒人がホームラン王になるな」と、ロビンソンと同じように多くの白人至上主義者たちから脅され続けたことだ。この偉大な金字塔については、子どもの頃テレビで観たので知っていた。でも、その背後で未だ人種差別が蔓延していたとは、同じ有色人種として少なからずショックを受ける。まあ、今でさえレイシストっていうのは、どこまでいってもレイシストであるし、公民権運動は60年代に入ってからなので当時差別主義が横行していた事実も冷静に考えれば理解できなくはない。
 イラストはこれまでの鉛筆画ではなく、ぬくもりの感じられる水彩画。画力があるので、絵の読み応えも十分だった。確かなデッサン力は、本格的なノンフィクション絵本に不可欠である。
 米国の恥部に触れながら描く伝記絵本は、スーパースターの少年時代を紹介するだけに子どもたちの共感を呼ぶことだろう。
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Henry Aaron's Dream

Henry Aaron's Dream

*1:バリー・ボンズの数字は※印付きということで除外