Here Comes the Garbage Barge! ニューヨークのゴミ処理問題を扱った絵本

 "Here Comes the Garbage Barge!"は、ゴミ処理問題を世に問うた実話を描く絵本である。 
 ことの起こりは1987年3月22日、ニューヨーク州ロングアイランド、アイスリップ市がゴミ埋立地不足から苦心した結果、ゴミを乗せたはしけを南部に送り出したことから始まる。目的地はノースカロライナ州。しかし現地では寄港を拒否され、ゴミのはしけはその後さらにメキシコ、ベリーズと南下しながら大西洋、カリブ海沿岸を彷徨い続けた。当たり前だよー、たとえ資金が支払われるとしても誰もニューヨークのゴミなど欲しくない。結局162日間の航行を経て同年9月1日、はしけはニューヨークに帰港。ゴミは生まれ故郷のアイスリップ市で焼却処理され、同地に灰が埋められた。
 この間、メディアはゴミ処理問題について大々的に報道を続けた。どうやら米国における「リサイクル」の発想は、このできごとがきっかけになったようである。
 絵本は該当人物の実名を使用しない分、ユーモアをたっぷり交えた風刺でことのなりゆきを描く。寄港地はノースカロライナだけでなく、ニューオリンズ、メキシコ、ベリーズ、ヒューストン、フロリダに増やされ、他人の廃棄物の受け皿になどなりたくない市民の感情を、沿岸警備隊や軍隊を出動させる窮迫した場面から訴える。ごもっとも。プカプカと海洋に浮かぶ無責任なゴミのはしけを想像しながら、暮らしは「reuse-reduce-recycle」が基本だとあらためて確かめた。
 実写のビジュアルイメージは、アニメーションやコマーシャル業界で人気のあるアートスタジオ「レッド・ノーズ・スタジオ」*1が担当した。オブジェによる人物の作り方が傑作で笑ってしまった。ゴミの山も必見。(ちょうど娘がブックレポートで3Dジオラマを制作していることもあり、海の表現のしかたなどすごく参考になった。)
 ところで、以前"I Stink! (Irma S and James H Black Honor for Excellence in Children's Literature (Awards))"を読んだ際、そこはかとなく疑問に感じたことがあった。ニューヨーク市内からゴミを集めた後、ドカッとはしけにゴミのかたまりを落として、そこからどうするの? 最後の場面で個人的に想像したことは、どこかにゴミ処理用の人工島があり、そこまで運ぶのだろう、といったような曖昧なイメージだった。しかしこのたびゴミのはしけ事件について知り、あの場面には愚かな人間に警鐘を鳴らすとてつもない皮肉が込められていたのだと気づく。ゴミとの対峙のしかたで、一人間が浮き彫りにされる。
I STINK! ごみの行方を考えよう - 絵本手帖
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Here Comes the Garbage Barge!

Here Comes the Garbage Barge!