Marching for Freedom: Walk Together, Children, and Don't You Grow Weary 投票権法撤廃への道

　投票権法撤廃への非暴力運動を描く"Marching for Freedom: Walk Together Children and Don't You Grow Weary"を読み、米国の公民権運動を振り返った。
　１８６２年、リンカーン大統領による奴隷解放宣言で奴隷制度が廃止されても、南部諸州では人種差別が色濃く残っていた。南部１１州は１８７６年、黒人取り締まり法（俗称ジム・クロウ法）を制定。農園主たちの「白人と黒人が平等になっては困る」本音を立法化した。
　ウィキぺディアによるジム・クロウ法の主な内容は下記のとおり。南部では、コカ・コーラの自動販売機にも「白人専用」と表記されていた。

• アラバマ州法
  • 病院　白人女性の看護師がいる病院には、黒人男性は患者として立ち入れない。
  • バス　バス停留所には白人用と有色人種用の２つの待合場が存在し、バス・チケット売り場も白人専用窓口と有色人種専用窓口があった。
  • 電車　人種ごとに車両が選別されるか、同車両内でも人種ごとに席が分けられた。
  • レストラン　白人と有色人種が同じ部屋で食事ができるようなレストランは違法になりさえもした。
• フロリダ州法
  • 結婚　白人と黒人の結婚は禁止された。なお先祖４世代前までに黒人の血が一人でも含まれれば、純粋な黒人と同様『黒人』として扱われた。
  • 交際　結婚していない黒人と白人（結婚自体既に禁止されているが）は一緒に住んではならないし、ひとつ部屋で夜を過ごしてもならない。この犯罪には１２ヶ月以上の禁固刑、もしくは＄５００（当時）の罰金が科せられた。
  • 学校　白人学校と黒人学校は厳密に分けられた。
• ミシシッピ州法
  • 平等扇動罪　パンフレット・出版・公共場での演説などで社会的平等・異人種間結婚を奨励すれば、６か月以下の懲役、もしくは＄５００以下の罰金。

　上記州以外に、ジョージア州・ルイジアナ州・ノースカロライナ州・ワイオミング州が似たような法律を持っていた。

• ほとんどの南部州
  • 過剰な投票税をかけるなどして、黒人が投票するのを防ごうとした。

　公民権運動は１９５５年、アラバマ州モンゴメリーで起きたロザ・パークスによるバス・ボイコットを発端に高まりを見せ、キング牧師の指導下で１９６４年、公民権法制定にこぎつける。このときジム・クロウ法は撤廃されるが、法律上の差別はまだ続いた。
　問題は上記最後の「過剰な投票税」。投票資格要件として「読み書き能力検査」を課し、「過剰な投票税」をかけ、黒人の投票権登録を妨害する――。ＫＫＫなど白人至上主義者たちによる脅迫も、激しかったにちがいない。
　この「投票権法」撤廃までの道のりを描くのが、写真ドキュメンタリーの本書である。１９６５年１月から３月まで計画、実行されたアラバマ州セルマから首都モンゴメリーまでの非暴力行進を、参加した子どもたちの当時を振り返りながら時系列で活写する。
　キング牧師の言葉は、何度聞いても、何度読んでも、そのたびに感動を覚える。力強く、明快で、即座に心をつかまれる。そして、この子どもたちの存在。「自由へ、一人一票、登録しよう」の手書きポスターを持ち、警察から尋問され、たとえ逮捕されても、大人といっしょに歩き続けた彼らの姿は米国の勲章だ。インドのガンジーに啓蒙された非暴力運動は学生や子どもも巻き込みながら全米、全世界に「Ｊｕｓｔｉｃｅ」の意味を訴え、同年８月、投票権法撤廃を勝ち取った。
　ところで米国で言う「ジム・クロウ法」は、南アフリカの「アパルトヘイト（人種隔離政策）」と同じ響きを持ち、この俗称誕生の背景には「顔を黒く塗って黒人に扮するブラックフェイス・パフォーマンス」の蔑視行為が含まれている。「ジム・クロウは田舎のみすぼらしい黒人を戯画化したキャラクターで、１８３７年までに黒人隔離を指す言葉としても使われるようになった（ウィキペディア）」。そのジム・クロウから抱く視覚イメージが岩波で絶版になった「ちびくろ・さんぼ」のイラストにつながるのであり、差別用語「サンボ」と合わせ、米史の汚点になっている事実は否めない。こうした状況下で、歴史に葬り去られようとしていた絵本が別の出版社から堂々と復刊されてしまっては、今は亡きキング牧師に何と説明したらいいのだろう。絶版の意味を著しく曲解している。日本社会の人権感覚、そのレベルを証明する一件である。
→Pancakes for Supper! みんなでホットケーキ！ - 絵本手帖
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